代替医療情報
(CAM: Complementary and Alternative Medicine)
北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系薬理学分野 
光本 泰秀 教授

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非侵襲的刺激による脳の老廃物の排出促進
 脳の重量は成人体重の2%に過ぎないが,脳で消費するエネルギーはからだ全体の消費量の20%を超える。これだけのエネルギーを消費するからには老廃物,特に毒性を有する物質の処理は欠かせない。この老廃物の排出には脳脊髄液が利用されている。脳脊髄液は,脳室系とクモ膜下腔を満たす無色透明の液体で,主に脳室系の脈絡叢で産生される。その量は150mL程度で,1日に約500mL産生されることから, 日に3~4回入れ替わっていることになる。脳脊髄液の排出機能が正常に働かないと,老廃物や毒性物質が蓄積され,認知症などの退行性脳神経変性疾患の発症リスクが高まると考えられている。
 脳脊髄液の機能に関連して2025年Nature誌に注目すべき研究結果が報告された1)。韓国科学技術院(KAIST)のGou Young Koh博士らの研究チームは,脳脊髄液が頭蓋内から頸部リンパ節へと排出される新たな経路を特定し,加齢に伴う排出機能低下を非侵襲的な機械的刺激によって回復させる手法を実験的に示した。
 Koh博士らのチームは,これまでも脳脊髄液の排出に関して先駆的な研究結果を発表してきた。マウスを用いた実験を通じて,脳後方の脳脊髄液が頭蓋骨基底部のリンパ管を経て首の内側のリンパ節に排出されることを発見し,2019年にNature誌で報告した2)。この報告では老化が進むと脳脊髄液の排出量が減るという事実も確認した。更に,2024年には,脳の老廃物を排出する脳脊髄液の主要な流出路として「鼻咽頭リンパ網」を特定し,その構造と機能の変化を解明した3)。マウスを用いた実験により,このリンパ網が脳底部からの液体を集め,深頸部リンパ管を通じて排出する重要なハブであることを突き止めた。加齢に伴いこのリンパ網が衰退し,炎症性物質の増加や細胞の変性が生じることで,脳の浄化機能が低下することを示唆した。一方,下流のリンパ管の収縮機能は加齢の影響を受けにくく,薬理学的な刺激によって脳脊髄液の排出を促進できる可能性を示した。
 研究チームは今回,顔の皮膚に近いリンパ管を通る新たな脳脊髄液の排出経路を見つけ報告した1)。脳脊髄液が,頭蓋底の髄膜リンパ管を経て,眼窩周囲,鼻粘膜,硬口蓋のリンパ管を通り,最終的に浅頸リンパ管を介して顎下リンパ節へと排出される経路である。研究では,蛍光トレーサーを用いたマウスおよびカニクイザルの解析により,脳脊髄液が頸部へと排出される複雑なネットワークを明らかにした。加齢に伴い,鼻粘膜や硬口蓋のリンパ管が萎縮すると,脳脊髄液の排水量が約30%減少した。また,浅頸リンパ管における一酸化窒素シグナル伝達の障害が確認された。驚くべきことに,手の届きやすい位置にある浅頸リンパ管に対し,皮膚の上から適切な強度の機械的刺激を与えることで,脳脊髄液の排水量を倍増させることが可能であり,加齢個体における排出不全をほぼ正常なレベルまで回復させることを実証した。
 この手法は,アルツハイマー病やその他の脳神経変性疾患など,脳脊髄液の排出停滞が関与する疾患に対する新たな治療アプローチとしての可能性を秘めている。ヒトでの効果確認が待ち遠しいところであるが,日頃から皮膚に近いリンパ管を刺激するような顔面の動きに気を配りたい。
【参考資料】

1)1. Jin H, Yoon JH, Hong SP, Hwang YS, Yang MJ, Choi J, Kang HJ, Baek SE, Jin C, Jung J, Kim HJ, Seo J, Won J, Lim KS, Jeon CY, Lee Y, Davis MJ, Park HS, McDonald DM, Koh GY. Increased CSF drainage by non-invasive manipulation of cervical lymphatics. Nature. 2025;643(8072):755-767.

2)Ahn JH, Cho H, Kim JH, Kim SH, Ham JS, Park I, Suh SH, Hong SP, Song JH, Hong YK, Jeong Y, Park SH, Koh GY. Meningeal lymphatic vessels at the skull base drain cerebrospinal fluid. Nature. 2019;572(7767):62-66.

3)Yoon JH, Jin H, Kim HJ, Hong SP, Yang MJ, Ahn JH, Kim YC, Seo J, Lee Y, McDonald DM, Davis MJ, Koh GY. Nasopharyngeal lymphatic plexus is a hub for cerebrospinal fluid drainage. Nature. 2024;625(7996):768-777.