代替医療情報
(CAM: Complementary and Alternative Medicine)
北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系薬理学分野
光本 泰秀 教授
55
動的な喫煙パターンとパーキンソン病リスク
環境因子の中で,喫煙はパーキンソン病(PD)リスクとの逆相関関係が示されており1),他の臓器系に対する喫煙の悪影響が立証されていることとは対照的である2)。喫煙によるPDリスク軽減効果には,ニコチンなどの喫煙に関連する化合物の神経保護作用が,ドーパミン作動性神経を保護したり,神経炎症プロセスを緩和したりする可能性が考えられてきた3)。しかしながら,喫煙者はしばしば早期死亡を伴うため,この逆相関の解釈には慎重さが求められている。これは,喫煙とPDの真の関係を覆い隠す競合リスクにつながる可能性があるからである。また,これまでの研究の多くは,単一時点での評価や喫煙量などの累積曝露指標に依存しており,これらは縦断的な喫煙行動の複雑さを十分に捉えきれていない可能性がある。喫煙とPDとの間に逆相関があることは一貫して報告されているものの,現喫煙者における過去の喫煙状況の変化がPDのリスクに及ぼす長期的な影響については,依然として不明な点が多い。
2026年3月24日付けのNeurology誌で,大規模コホートを用いて,喫煙状況の動的な変化とPDおよび全死因死亡リスクとの関連性を調査した結果が発表された4)。この研究では、複数の時点にわたって現喫煙者を追跡し、競合リスクモデルを適用して早期死亡を考慮するとともに、曝露期間と追跡期間を慎重に時間的に整合させることで、潜在的な不死時間バイアスおよび加齢に関連する交絡因子を最小限に抑えている。
韓国,延世大学校医学部のAhn氏らは,40歳以上の喫煙者を対象とした大規模な後ろ向きコホート研究を実施し(対象者:410,489名,男性93.5%,追跡期間:中央値9.1年),喫煙状況の経時的変化と,PDおよび全死因死亡のリスクとの関連を解析した。対象者は,喫煙継続者、最近禁煙した者、禁煙を継続している者、喫煙を再開した者の4群に分類されている。解析の結果,PDリスクは喫煙継続者で最も低かった。最近禁煙した者および禁煙を継続している者では,喫煙継続者と比較してPDリスクが高く(部分分布ハザード比〔95%信頼区間〕は各々1.60〔1.41~1.82〕、1.61〔1.42~1.81〕),喫煙を再開した者では,喫煙継続者との比較で有意差は認められなかった(同1.05〔0.87~1.28〕)。一方、最近禁煙した者および禁煙を継続している者では、喫煙継続者と比べ全死因死亡リスクがそれぞれ3%および17%低かったが,喫煙を再開した者では有意差は認められなかった。
これらの結果から,PDリスクの低下は主に「現在の喫煙」に関連しており,禁煙によってその効果は失われるが,短期間の禁煙(2年程度)では保護効果はすぐには減衰しないと考えられた。また,喫煙継続はPDリスクを低下させるように見えるが,同時に全原因死亡率を大幅に高めることは明らで,喫煙による有害な副作用を伴うことなく,PDに対する喫煙の効果を再現する安全な治療法の開発が期待される。また,早期かつ継続的な禁煙の推進は,予防可能な死亡を減らし,生活の質を向上させるという多大な利益をもたらすため,公衆衛生上極めて重要であると締めくくっている。
【参考資料】
1)Ascherio A, Schwarzschild MA. The epidemiology of Parkinson’s disease: risk factors and prevention. Lancet Neurol. 2016;15(12):1257-1272.
2)Carter BD, Abnet CC, Feskanich D, et al. Smoking and mortality: beyond established causes. N Engl J Med. 2015;372(7):631-640.
3)Villafane G, Thiriez C, Audureau E, et al. High-dose transdermal nicotine in Parkinson’s disease patients: a randomized, open-label, blinded-endpoint evaluation phase 2 study. Eur J Neurol. 2018;25(1):120-127.
4)Ahn SH, Kim DH, Park J, et al. Dynamic smoking patterns and risk of Parkinson disease and all-cause mortality. A competing risk analysis approach. Neurology 2026;106(6):e214722(1-9).
(CAM: Complementary and Alternative Medicine)
光本 泰秀 教授
55
動的な喫煙パターンとパーキンソン病リスク
環境因子の中で,喫煙はパーキンソン病(PD)リスクとの逆相関関係が示されており1),他の臓器系に対する喫煙の悪影響が立証されていることとは対照的である2)。喫煙によるPDリスク軽減効果には,ニコチンなどの喫煙に関連する化合物の神経保護作用が,ドーパミン作動性神経を保護したり,神経炎症プロセスを緩和したりする可能性が考えられてきた3)。しかしながら,喫煙者はしばしば早期死亡を伴うため,この逆相関の解釈には慎重さが求められている。これは,喫煙とPDの真の関係を覆い隠す競合リスクにつながる可能性があるからである。また,これまでの研究の多くは,単一時点での評価や喫煙量などの累積曝露指標に依存しており,これらは縦断的な喫煙行動の複雑さを十分に捉えきれていない可能性がある。喫煙とPDとの間に逆相関があることは一貫して報告されているものの,現喫煙者における過去の喫煙状況の変化がPDのリスクに及ぼす長期的な影響については,依然として不明な点が多い。
2026年3月24日付けのNeurology誌で,大規模コホートを用いて,喫煙状況の動的な変化とPDおよび全死因死亡リスクとの関連性を調査した結果が発表された4)。この研究では、複数の時点にわたって現喫煙者を追跡し、競合リスクモデルを適用して早期死亡を考慮するとともに、曝露期間と追跡期間を慎重に時間的に整合させることで、潜在的な不死時間バイアスおよび加齢に関連する交絡因子を最小限に抑えている。
韓国,延世大学校医学部のAhn氏らは,40歳以上の喫煙者を対象とした大規模な後ろ向きコホート研究を実施し(対象者:410,489名,男性93.5%,追跡期間:中央値9.1年),喫煙状況の経時的変化と,PDおよび全死因死亡のリスクとの関連を解析した。対象者は,喫煙継続者、最近禁煙した者、禁煙を継続している者、喫煙を再開した者の4群に分類されている。解析の結果,PDリスクは喫煙継続者で最も低かった。最近禁煙した者および禁煙を継続している者では,喫煙継続者と比較してPDリスクが高く(部分分布ハザード比〔95%信頼区間〕は各々1.60〔1.41~1.82〕、1.61〔1.42~1.81〕),喫煙を再開した者では,喫煙継続者との比較で有意差は認められなかった(同1.05〔0.87~1.28〕)。一方、最近禁煙した者および禁煙を継続している者では、喫煙継続者と比べ全死因死亡リスクがそれぞれ3%および17%低かったが,喫煙を再開した者では有意差は認められなかった。
これらの結果から,PDリスクの低下は主に「現在の喫煙」に関連しており,禁煙によってその効果は失われるが,短期間の禁煙(2年程度)では保護効果はすぐには減衰しないと考えられた。また,喫煙継続はPDリスクを低下させるように見えるが,同時に全原因死亡率を大幅に高めることは明らで,喫煙による有害な副作用を伴うことなく,PDに対する喫煙の効果を再現する安全な治療法の開発が期待される。また,早期かつ継続的な禁煙の推進は,予防可能な死亡を減らし,生活の質を向上させるという多大な利益をもたらすため,公衆衛生上極めて重要であると締めくくっている。
2026年3月24日付けのNeurology誌で,大規模コホートを用いて,喫煙状況の動的な変化とPDおよび全死因死亡リスクとの関連性を調査した結果が発表された4)。この研究では、複数の時点にわたって現喫煙者を追跡し、競合リスクモデルを適用して早期死亡を考慮するとともに、曝露期間と追跡期間を慎重に時間的に整合させることで、潜在的な不死時間バイアスおよび加齢に関連する交絡因子を最小限に抑えている。
韓国,延世大学校医学部のAhn氏らは,40歳以上の喫煙者を対象とした大規模な後ろ向きコホート研究を実施し(対象者:410,489名,男性93.5%,追跡期間:中央値9.1年),喫煙状況の経時的変化と,PDおよび全死因死亡のリスクとの関連を解析した。対象者は,喫煙継続者、最近禁煙した者、禁煙を継続している者、喫煙を再開した者の4群に分類されている。解析の結果,PDリスクは喫煙継続者で最も低かった。最近禁煙した者および禁煙を継続している者では,喫煙継続者と比較してPDリスクが高く(部分分布ハザード比〔95%信頼区間〕は各々1.60〔1.41~1.82〕、1.61〔1.42~1.81〕),喫煙を再開した者では,喫煙継続者との比較で有意差は認められなかった(同1.05〔0.87~1.28〕)。一方、最近禁煙した者および禁煙を継続している者では、喫煙継続者と比べ全死因死亡リスクがそれぞれ3%および17%低かったが,喫煙を再開した者では有意差は認められなかった。
これらの結果から,PDリスクの低下は主に「現在の喫煙」に関連しており,禁煙によってその効果は失われるが,短期間の禁煙(2年程度)では保護効果はすぐには減衰しないと考えられた。また,喫煙継続はPDリスクを低下させるように見えるが,同時に全原因死亡率を大幅に高めることは明らで,喫煙による有害な副作用を伴うことなく,PDに対する喫煙の効果を再現する安全な治療法の開発が期待される。また,早期かつ継続的な禁煙の推進は,予防可能な死亡を減らし,生活の質を向上させるという多大な利益をもたらすため,公衆衛生上極めて重要であると締めくくっている。
【参考資料】
1)Ascherio A, Schwarzschild MA. The epidemiology of Parkinson’s disease: risk factors and prevention. Lancet Neurol. 2016;15(12):1257-1272.
2)Carter BD, Abnet CC, Feskanich D, et al. Smoking and mortality: beyond established causes. N Engl J Med. 2015;372(7):631-640.
3)Villafane G, Thiriez C, Audureau E, et al. High-dose transdermal nicotine in Parkinson’s disease patients: a randomized, open-label, blinded-endpoint evaluation phase 2 study. Eur J Neurol. 2018;25(1):120-127.
4)Ahn SH, Kim DH, Park J, et al. Dynamic smoking patterns and risk of Parkinson disease and all-cause mortality. A competing risk analysis approach. Neurology 2026;106(6):e214722(1-9).