代替医療情報
(CAM: Complementary and Alternative Medicine)
北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系薬理学分野 
光本 泰秀 教授

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瞑想とマインドフルネス
 米国の国立補完統合衛生センター(NCCIH)では,病気の症状や治療に伴う副作用のマネジメントを目的とした,通常の医療を補完するようなアプローチに関して,一般向けの情報提供や研究支援を積極的に進めている1)。同センターが,補完医療アプローチとして着目しているのが,栄養的アプローチ,身体的アプローチ及び心理的アプローチの3つである2)。本稿では,心理的アプローチの中のMeditation and Mindfulness(瞑想とマインドフルネス)について,同センターが一般向けに公開している情報に基づいて紹介したい。

 まず初めに,瞑想やマインドフルネスの概要について,以下のように紹介されている。瞑想には何千年もの歴史があり,多くの瞑想法は東洋の伝統から始まった。瞑想という用語は,心と体の統合に焦点を当て,心を落ち着かせ,全体的な幸福感を高めるために用いられるさまざまな実践法を指す。瞑想には、呼吸、音、視覚イメージ、mantra(心を落ち着かせるために繰り返し唱える言葉)など,特定の感覚に精神を集中させるものもある。その他の瞑想として,マインドフルネスが含まれる。マインドフルネスとは,判断を下すことなく,今この瞬間に注意を向け続けることである。瞑想やマインドフルネスを教えるプログラムでは,他の活動と組み合わせて実践することもある。例えば、マインドフルネスに基づくストレス軽減法は,マインドフルな瞑想を教えるプログラムであるが,ストレス体験から学んだことを活かすような討論会なども含まれている。マインドフルネスに基づく認知療法は,マインドフルネスの実践と認知行動療法を統合したものである。他方,これらの安全性については,ほとんどリスクがないと考えられている。しかし,これらが心身に対して有害な影響があるかどうかを検討した研究がこれまでほとんど行われていないため,安全性について現時点で明確なことは言えない。

 次に,瞑想やマインドフルネスが,どの程度米国社会に浸透しているか,過去の調査報告について解説されている。2017年の米国保健医療統計センターの調査3)によると,過去12カ月間にmantraに基づく瞑想,マインドフルネス瞑想,スピリチュアル瞑想のいずれかを実践した成人の割合は、2012年から2017年の間に3倍に増加した(4.1%から14.2%)。4歳から17歳の子どもでは,その割合が2012年の0.6%から2017年には5.4%に激増した。学校向けのマインドフルネス・プログラムが人気となっているが,これらは、生徒や教育者がストレスや不安に対処し,衝動をコントロールし、回復力,記憶力,集中力を向上させることを目的として実践されている。これらのプログラムで使用されるマインドフルネスの実践方法やトレーニング方法は様々であるが,教育現場におけるマインドフルネス・プログラムの有効性に関する研究については,サンプル数が少なく,効果についても様々である。2012年に米国で行われた調査4)では,34,525人の成人のうち1.9%が過去12ヶ月間にマインドフルネス瞑想を実践したと回答している。もっぱらマインドフルネス瞑想を実践している回答者のうち,73%が「健康全般のためや病気予防のために瞑想している」と答え,そのほとんど(約92%)が「リラックスするため,ストレスを軽減するために瞑想している」と回答した。また,マインドフルネス瞑想を実践する理由として,半数以上の回答者がより良い睡眠を望んでいた。瞑想やマインドフルネスの実践は、さまざまな健康上の利点があり,人々の生活の質を向上させるのに役立つ可能性がある。しかしながら,瞑想やマインドフルネスの実践にはさまざまな種類があり,臨床研究における効果の測定が容易ではないことから,有益性の判断には注意が必要である。

 不安やうつ病のような精神疾患を対象にマインドフルネスの効果を検討した臨床研究が,これまでも積極的に進められてきているので,同センターが紹介している過去の報告について記しておく。
 2018年にNCCIHが支援した臨床研究では、不安やうつ病などの精神疾患と診断された参加者142グループを対象に,マインドフルネス瞑想のアプローチを,無治療,認知行動療法や抗うつ薬などのエビデンスの確立されている治療と比較し検討した5)。この分析には12,000人以上の参加者が含まれ,不安やうつ病の治療において,マインドフルネスに基づくアプローチは,全く治療を行わないよりも優れており,エビデンスに基づく治療と同等の効果があることを明らかにした。また,23件の臨床研究(参加者1,815人)を対象にした2021年の分析では,不安障害と診断された成人の治療として用いられたマインドフルネスの効果について検討された6)。この分析では,マインドフルネスに基づく介入(単独または通常の治療との併用)を,認知行動療法,心理教育,リラクゼーションなどの他の治療と比較した。その結果,異なるマインドフルネスに基づくアプローチの短期的有効性については,様々な結果が示された。全体として,不安や抑うつ症状の重症度を軽減させるという点では,通常の治療よりも有効であったが,認知行動療法と同程度に有効であったのは,いくつかのタイプのマインドフルネス・アプローチのみであった。しかし,すべての研究のバイアスリスクが不明であったため,これらの結果は慎重に解釈されるべきである。2019年の報告では,1,373人の大学生・専門学校生を対象とした23件の臨床研究を分析したところ,ヨガ,マインドフルネス,瞑想の実践がストレス,不安,抑うつの症状に及ぼす効果が検討された7)。その結果,すべての実践に何らかの効果があることが示されたが,レビューに含まれた研究のほとんどは質が低く,バイアスのリスクが高かった。
【参考資料】

1)https://www.nccih.nih.gov/

2)https://www.nccih.nih.gov/about/nccih-strategic-plan-2021-2025

3)Black LI, Barnes PM, Clarke TC, Stussman BA, Nahin RL. Use of yoga, meditation, and chiropractors among U.S. children aged 4–17 years. NCHS Data Brief, no 324. Hyattsville, MD: National Center for Health Statistics. 2018.

4)Burke A, Lam CN, Stussman B, et al. Prevalence and patterns of use of mantra, mindfulness and spiritual meditation among adults in the United States. BMC Complementary and Alternative Medicine. 2017;17:316.

5)Goldberg SB, Tucker RP, Greene PA, et al. Mindfulness-based interventions for psychiatric disorders: a systematic review and meta-analysis. Clinical Psychology Review. 2018;59:52.

6)Haller H, Breilmann P, Schröter M et al. A systematic review and meta‑analysis of acceptance and mindfulness‑based interventions for DSM‑5 anxiety disorders. Scientific Reports. 2021;11:20385.

7)Breedvelt JJF, Amanvermez Y, Harrer M, et al. The effects of meditation, yoga, and mindfulness on depression, anxiety, and stress in tertiary education students: a meta-analysis. Frontiers in Psychiatry. 2019;10:193.