遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.091
インスリンを鼻に噴霧 アルツハイマー病の初期症状が改善

  我が国では、 “亦ですか” ということなのか主要メデイアが報じていませんので世間では注目されていませんが、 益々増加の一途をたどっているため今や社会問題化しつつあるのに(認知症 支援強化へ国家戦略)、なかなか有効な治療法の適用が困難なアルツハイマー型認知症に対し、その初期症状の改善に何と 「経鼻インスリン療法」 が有効であることが、再び(或いは三度か、四度か)、ググってみますと、以下に例示するように、結構多数報じられていることが分かります。

  初めに“亦ですか”と書いたのは、 既に2011年9月12日、小生は、多くの方々に Intranasal Insulin Therapy for Alzheimer Diseases and Amnestic Mild Cognitive Impariment A Pilot Clinical Trial  Arch Neurol. published online Sept 12, 2011

PDF: http://archneur.ama-assn.org/cgi/reprint/archneurol.2011.233

がオンライン版で発表されたのをご紹介したことがあったからです。

  即ち、研究費を補助したNIH加齢研究所(National Institute on Aging)も早速にプレスリリースを出してPRしていますが
NIH-supported pilot trial of insulin nasal-spray for Alzheimer's )、有効な医薬品がなかなか登場しないアルツハイマー病の治療に何とインスリンの経鼻スプレーが有望という格好の話題だけに、欧米のメディアは即日大騒ぎを始めていたのです。insulin nasal spray Altzheimer ” をキーワードに検索したら、うんざりする程沢山の記事が出て来ました。2,3を例示しますと、

Insulin Nasal Spray May Slow Alzheimer's Disease
http://www.medpagetoday.com/Neurology/AlzheimersDisease/28472

Insulin Nasal Spray May Slow Alzheimer's
http://www.medicalnewstoday.com/articles/234293.php

Nasal insulin could help memory and function of people Alzheimer's
http://www.healthcentral.com/alzheimers/c/62/144076/insulin-alzheimer

といった次第でした。

  でもどうせメデイアが大きく報道するだろうからと書き込みもないでいたのですが、どうした訳か一般紙誌から専門紙誌に至るまでがサッパリで、辛うじて一つ。

アルツハイマー病にはインスリン鼻スプレー
http://365yen.jp/tech/2011/09/46721

があるだけのようでした。すなわち、アメリカワシントン州シアトルにあるワシントン大学医学部のSuzanne Craft 博士を筆頭とする14名の研究陣は、シアトル在郷軍人会病院で軽度の認知障害のある患者104名(1年前にホノルルで開催されたアルツハイマー病に関する国際会議の際の口頭発表では109名でしたから、結果は更に整理されて今回の論文発表に至ったのでしょう)について、インスリン鼻腔スプレー( ワシントン州のKurve Technology 社製 )群(1回10国際単位あるいは20国際単位を1日2回、すなわちインスリンを1日20単位投与群および40単位投与群の2群)とプラセボ群に分け、無作為化二重盲検法で、4か月間にわたり認知機能障害の進展度合を追跡し、更に一部についてはPET検査やAβレベル、タウ蛋白の測定なども施行して検討したところ、極めて有望な結果が得られたというのです。

  それにしても、小生が日本人として感じたのは、仏様にあげたお線香の香りによる副交感神経優位の状態の到来とかを考えると、あるいは更にもっと広くは、いわゆる「香道」なる文化のある我が国なら、鼻腔に適用された物質を運ぶ鼻粘膜下毛細血管と脳の神経細胞との形態的ならびに機能的関係について、我が国では他国以上にもっと詳細な研究が施行されていて然るべきではないのかなあということでした。

  現在糖尿病治療に用いられているインスリン投与法では、効果が無いばかりか、危険も伴うことは勿論です。今回は特殊なスプレーで鼻腔に噴霧することにより短時間で脳内にインスリンを供給することができ、全身作用を避けられたのが成功の理由だというのですが、機序の詳細はわかりませんし、もっと大規模で長期の臨床試験が必要なことも勿論です。

  今回の “インスリンスプレーによるアルツハイマー病治療”報道の再登場に際しても、 あらためてその感を強くしました。すなわち、この「遠藤浩良の雑記帳」においても既に「 No.073 オキシトシンが統合失調症薬足り得る可能性は!?」において触れている如く、 極めて高感度の嗅覚系を利用した活性物質の新しい投与形式は、インスリンとかオキシトシンとかといった個別の問題ではなく、全身適用の場合とは全く異なる生理作用ないし薬理作用の発現を期待する一般的方法論として広く研究されて然るべきと思います。


2015/01/30