遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.089
エボラ出血熱治療薬の試験に “偽薬試験” は必要か ?

  医薬品の有効性を確実に確認するためには偽薬(placebo)群を置いた「治験」が必要であることは一般的に言ったら論を待たないのですが、今世界を震えあがらせているエボラ出血熱のように、未だ治療薬が存在しない致命的疾患の臨床試験の場合にはどうでしょうか? なかなかに難しい問題をはらんでいますね。


エボラ治療薬、欧州「偽薬治験なし」投与計画に米が異議   WSJ 2014 年 10 月 31 日 http://jp.wsj.com/news/articles/SB11875414796426453974304580247931566430848

欧州の抗エボラ薬治験計画に懸念を示す米食品医薬局のルシアナ・ボリオ氏
T.J. Kirkpatrick for The Wall Street Journal

  西アフリカのエボラ出血熱患者の治療で、試験段階の抗エボラ薬を、その偽薬を与える患者グループを作らずに全患者に与えるという欧州医師団の方針に、米国の医療関係者が異議を唱えている。倫理的にも有効性の観点からも問題だという。

  オックスフォード大学やウェルカム・トラスト、国境なき医師団やパスツール研究所などの英仏の学者や医療グループは、無作為に抽出してその偽薬を与えないグループを作ることなしにアフリカの患者に試験薬を与えることを決定した。エボラ熱のようなひどい伝染病治療では、試験段階の薬とはいえ全員に与えないのは非倫理的との判断だ。

  この決定は、欧州医師団を米国の食品医薬局(FDA)や国立衛生研究所(NIH)の担当者らと対立させる結果となった。FDAの 反テロ・危険担当のコミッショナー補のルシアナ・ボリオ氏はジュネーブで今月開いた会合で、それらの薬が有効で高い毒性はないとのより良い証拠なしに投与 する計画を極めて懸念していると表明。「これは、われわれが知り得る限り科学上ベストだというところで始める以外にない急を要する問題だ。何が最良の薬か についての答えを得る最も早く確定的な方法は、無作為グループも作った治験だ」と述べた。

  米国担当者は、全ての患者ができる限り最善の治療を受ける定番の方法を推している。つまり、1つ のグループにある試験薬を投与し、別のグループに偽薬を与えて効果を測る方法だ。エボラ熱の場合は通常の治療で患者に大変な量の水分を与えている。嘔吐 (おうと)や下痢が激しい場合があるからだ。偽薬を与える患者グループを作らない限り、その抗エボラ薬が命を救っているのか奪っているのかを知るのは不可 能だというわけだ。

  オックスフォード大学の伝染病治療医師で世界保健機関(WHO)関連機関でも働くピエロ・オリアロ氏は、全ての患者に試験薬を与えることを提唱する欧州医師団のリーダーの1人だ。オリアロ医師によると、投薬される可能性のある試験薬には米バイオ製薬会社キメリックスの治験薬「ブリンシドフォビル」と、富士フイルム傘下の富山化学工業が開発した「アビガン」が含まれている。いくつかのアフリカ諸国の医師もこの欧州医師団に加わっている

  オリアロ氏は「われわれがしたいのは必要なことをないがしろにすることではない。これは完全に受け入れられることだ」と指摘。「問題は治療が施されなければ人が死んでいくということだ。誰か米国人が偽薬を与えられたとしたら、それを米国民はどう思うだろうか」と述べた。

  7人の患者は米バイオ医薬品会社マップ・バイオファーマシューティカルの試験薬「ジーマップ」を与えられた。その投薬が患者にどのような結果をもたらしたかは明らかにされていない。生産量が限られていたため、8月中には全て使用されてしまい、現在同社と提携先で生産中だという。

  ブリンシドフォビルは、試験管細胞培養されたエボラ熱ウイルスに効果のあった抗ウイルス試験薬で、米国では少なくとも3人 の患者に投与された。骨髄移植患者への比較的多量の試験的投与では、高い確率で激しい下痢が起きている。アビガンは日本でインフルエンザ薬として承認され たが、まだ米国では試験段階だ。これまでエボラ熱ウイルスにはネズミや培養細胞で一定の効果を示し、欧州の一部のエボラ熱患者に投薬された。

  キメリックスと富士フイルムの担当者らはア フリカでの治験にそれぞれの試験薬を提供したいとしているが、それらの治験がどのようなものになるかについては言及を避けた。富士フイルムは、フランスと ギニアの医師らが計画しているギニアのエボラ熱患者の治験にアビガンを提供すると述べた。

  欧州医師団はアフリカでの試験投与を今年開始する計画はできているとし、一部のアフリカ諸国医療関係者もそれを支持すると公に発言している。欧州規制当局は通常、米国当局と同様、新薬承認には無作為抽出グループの治験を義務付けている。

  理想の治験は、医師も患者も誰が本物の薬を服用しているか知らない状態で実施する。そして独立の判定委員会が、その薬が効果あるか、危険だと判定し治験を停止する。

  オリアロ医師の意見は、1980年代にエイズウイルスの試験薬へのアクセスを求めたエイズ活動家らの議論に通じるものだ。当時のエイズ感染は死刑宣告に相当した。そのため、一部の患者には試験薬でさえ試す価値があった。オリアロ医師は西アフリカでのエボラ熱による死亡率は40%から70%としている。

  オリアロ医師は今回偽薬投与群が必要ない理由として、医師はある村やクリニックでの死亡率がどの程度か既に把握していることを挙げている。その死亡率を、偽薬を投与された「過去の管理グループ」のものとして扱い、実際の薬を投与されている人々の死亡率と比較できるというわけだ。

  この手法は医療専門家から広く批判されている。過去のグループだとしたら、たとえば現在は他の面での医療が進歩していて単純に比較できない可能性があるからだ。

  欧州医師団の計画を支持する専門家らは医学誌ランセットの今月号で、エボラ熱患者の死亡率は通常でない措置を正当化できるほど十分高いと主張、次のように述べた。「従来型の治療で死亡率がそれほど高ければ、試験薬投与で少なくとも効果が出る可能性のある場合は(偽薬投与のための)無作為抽出グループの形成にこだわるのは問題がある」

  米NIHのアレルギー・感染症部のクリフォード・レーン調査次長は、FDAと西アフリカ諸国の担当者と協力し、複数のまだ効果の不明なエボラ熱試験薬について無作為抽出の管理グループも作った治験を進めている。

  「われわれは最も効果の高い治療法をできるだけ多くの人にできるだけ早く届けたいとおもっており、その唯一の方法は無作為抽出の管理グループを使ったものだ」とレーン医師は述べた。こうした管理グループなしで行えば「さらに悪化させかねないからだ」


  私自身はもう歳で自らアフリカに出掛けられませんから、代わりに「国境なき医師団」には毎月定額の寄金を寄せていますが、もしも医師資格を持った自分の息子や娘が義侠心からエボラ出血熱の治療活動に参加したとして、たまたまこの試験の被験者に組み入れられたら、”偽薬群”という高い死亡のリスクをすんなりと受容出来ますか? もしも ”全員に被験薬を投与する方式” だったら、命を落とすことなく医療界で活躍を続けられるのにですよ。

  この問題は、もはや議論の段階を超えて、以下ののように「臨床試験」が現実になってきたのですから、今や重大です。皆さんは如何お考えですか。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1411/1411043.html

一番の好成績収めるのは…アビガンなど3種のエボラ治療に関する臨床試験をギニアで開始/国境なき医師団

  西アフリカのエボラウイルス病(EVD)流行に対し,現地で医療活動を続ける国境なき医師団(MSF)は,12月より流行国のギニアでEVD患者を対象とした3つの治療に関する臨床試験を開始すると発表した。日本で開発され,既にインフルエンザウイルスに対し国内承認を得ている富山化学工業の抗ウイルス薬ファビピラブル(商品名アビガン)の臨床試験も行われる。
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2014/11/28