遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.086
“糞便移植譚”第4報 ― 世界初の国際会議!

  「糞便移植」(http://allabout.co.jp/gm/gc/445167/ 他人の便を移植して病気が治る?糞便移植と腸内細菌 )、 ”fecal transplantation” ( http://en.wikipedia.org/wiki/Fecal_bacteriotherapy )は、最近ある程度まで知られるようになったとはいえ、日本の医学界ではまだまだとても一般化したとは言えない状況なので、小生は、当該NPO「医療教育研究所」ホームページ上のこのサイトにおいて、No.067“糞便移植”ってご存じですか?No.069“糞便移植”譚のその後、およびNo.083再び“糞便移植譚”その後―やっと日本でも臨床試験!と、三度にわたり「糞便移植」についてご説明を申し上げました。

  事態は欧米でも同様で、治癒困難な再発CDI感染症に対して、バンコマイシンによる薬物療法ですら50%程度の有効性なのに、「糞便移植法」は奏効率が何と90%を超えるという数字に驚愕した各国のメディアが競って大々的に報道するにもかかわらず、科学的エビデンスの視点からするとなおデータが十分とは言い切れないとする専門家の主張もあって、公式な医学界の表舞台にはなかなか登場していませんでした。

  しかし、イギリス国立臨床評価研究所は実利を尊ぶ立場から日常診療の場での『ガイダンス』(http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1403/1403103.html)を発表し、またアメリカでは、米国消化器病学会雑誌Am J Gastroenterol(2013; 108: 177-185)に、これを”健康理解と疾患治療におけるパラダイムシフトである”とするレビューが発表されるなどして(http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1303/1303028.html、糖尿病や喘息にも適用!? 広がるか糞便注入の可能性)、事態は急速に変わり始め、臨床試験もきっちりと実施(http://www.prnewswire.com/news-releases/seres-health-completes-enrollment-in-a-clinical-study-for-ser-109-in-recurrent-clostridium-difficile-infection-and-announces-positive-preliminary-data-267323661.html; Seres Health Completes Enrollment in a Clinical Study for SER-109 in Recurrent Clostridium difficile Infection and Announces Positive Preliminary Data )、されるまでになりました。

  そして、この2014年には、先ず5月3~6日にイリノイ州シカゴ市で開催された米国消 化器病週間(DDW:Digestive Disease Week)において、このホットな糞便細菌叢移植の話題について、その安全性に対する警鐘をも含めてですが、多くの刺激的な報告がありました( 参照[印象記]米国消化器病週間(DDW)2014 活気を呈するH. pylori除菌/新規酸分泌抑制薬にも注目[2014年6月5日] )。

  更に続いて、米国消化器病学会(AGA)が8月16~17日に米国シカゴで開催した  ”2014 James W Freston Conference” では、国際会議としては初めて、「糞便微生物相移植」( Fecal Microbiota Transplantation : FMT )がメインテーマに採り上げられました。以下をご参照ください。

  健常者から採取した材料を用いるとはいえ、別人の腸内細菌叢を治療が困難な再発CDI患者に移すというこの治療法は、その90%超という圧倒的な著効からは一見問題なく見えるものの、実は治療に必要な微生物だけでなく、その他の非特定な細菌から真菌まで含めた多種類の微生物も同時に移しているわけですから、健康な配偶者や親族の糞便を利用するという現段階の方法では、安全性の面でまだ完全とは言い切れないので、将来的には遙かに高度に規格化されて、安全性が充分に保証された“人工的な細菌叢”を用いる方法にまで精度を高める必要があることは確かです。 

  その方向で、最近とみに信頼度が地に落ちた医師主導型「臨床研究」の真の価値を国民に再 認識してもらうために、我が国でも各地の医療機関が早く自発的な研究を進展させることを切に希望してやみません。 


2014/8/29