遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.085
メディアは地道な基礎研究にもっと目を向けて
紹介に努めるべきではないですか !

  不本意にも病んでしまった方々の健康を早く回復させるのに有効なお手伝いのできる大勢の薬剤師さんが日本中に生まれるよう、我々「医療教育研究所」は皆さん方の勉学意欲に充分応えた勝れたコンテンツの作成に日夜懸命の努力をしております。理事長の小生も、その一助として、研究所ホームページの自身のサイト「遠藤浩良の雑記帳」には、結構大事と思われるのに我が国のメジャーなメディアはあまり注目しない問題を意識的に採り上げるようにしてきました。

  例えば、国民病ともいうべき糖尿病についてみると、

  

No.035糖尿病薬開発の最前線
No.036糖尿病治療の最前線 ― 膵島移植について
No.0431型糖尿病患者移植用ブタ膵島封入カプセル、ロシアで販売承認
No.0451型糖尿病男子の治療に光明、精巣の幹細胞から膵島β細胞

などがその好例です。これらは外国の研究例ですが、本日は、我が国で実施された地道な基礎研究だけに、日本のメディアがもっと報道して然るべきかと思う最近の一例をご紹介しましょう。

  それは京都大学発の糖尿病治療法の研究です。まだラットを用いた基礎的な動物実験段階の研究ですが、特に1型糖尿病の患者さんにとっては、早急な進展の俟たれる研究です。

・Long-term allogeneic islet graft survival in prevascularized subcutaneous sites without immunosuppressive treatment
・Luan NM1, Iwata H.

1Department of Reparative Materials, Institute for Frontier Medical Sciences, Kyoto University, Kyoto, Japan.

岩田博夫 再生医科学研究所教授らの研究グループは、糖尿病ACIラットの皮下に塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むアガロースロッドを埋め込むことで、移植された細胞や組織片への免疫反応が起きない免疫特典部位を作成することに成功しました。
 また、この部位へ移植したF344ラット膵島(インスリン分泌組織)は免疫抑制剤を投与することなく生着し、100日を超える観察期間中血糖値が正常化し、糖尿病を治療することに成功しました。
 本研究成果は、6月6日付のアメリカ移植学会およびアメリカ移植外科学会が提供する「American Journal of Transplantation」誌の電子版に掲載されました。



研究者からのコメント

  人工透析は、それなくしては数週間も生きて行けない患者さんを10年さらに20年と生きて行けるようにする素晴らしい治療法です。ただ、そのためには患者 さん一人当たり年間約500万円の医療費がかかります。透析導入の原疾患の第一位(44.2%)は糖尿病性腎症です。糖尿病を治すことで透析へ導入される 患者数を劇的に減らすことが可能です。私たちのグループでは、長年インスリン分泌組織の移植による重症の糖尿病を治療する方法を研究してきました。私たち の目標は、(1)免疫抑制剤の投与を必要としない(2)皮下にインスリン分泌組織移植する(3)大量のインスリン分泌組織を確保する。今回の研究で、 (1)と(2)を実現することが出来ました。(3)の問題も、近年ヒトiPS細胞からかなりの効率でインスリン分泌組織を分化誘導することが可能になり、 数年後には解決できると考えます。
 再生医療は高額の医療費がかかり、医療として定着するか危ぶむ声があります。しかし、一人当たり年間 約500万円の医療費がかかる透析患者を減らすことができれば、当初1000万円かかったとしても十分医療費を削減でき、何よりも患者は極めて快適な生活 が送れるようになると考えます

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近年、インスリン分泌細胞の移植によるインスリン依存性糖尿病患者の治療が試みられているが、定着させるには多くの困難がある。とくに、移植細胞を 拒絶反応や自己免疫反応から保護するため、免疫抑制剤の投与が必要であり、その副作用が懸念されること、移植部位が深部の重要臓器である肝臓や腎臓で、問 題発生時に膵島の除去が困難であること、膵島の提供者が少なく治療を施せる患者数はごく限られていること、などが主な課題点となっていた。

同研究グループは、まず糖尿病ACIラットの皮下に、塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むアガロースロッドを埋め込むことで、移植された細胞や組織片への免疫反応が起きない免疫特典部位を作成することに成功した。
この部位に、インスリン分泌組織であるF344ラット膵島を移植したところ、免疫抑制剤の投与無しで生着し、100日を超える観察期間中で、血糖値 が正常化した。一方、膵島移植の臨床と同様に、経門脈的に肝臓に膵島を移植すると、血糖値は一時的に正常化するものの、移植後10日前後で再び高血糖に 戻ってしまったという。
今回の方法により、ラットにおいて免疫抑制剤の投与を行うことなく、細胞移植での糖尿病治療を実現することができた。また皮下移植であるため、万が一の際には容易に取り除くこともでき、これまで課題とされてきた、大きな2点が乗り越えられる見込みとなった。

残る3点目の提供者不足による膵島の確保が困難である点については、現在ヒトiPS細胞から高効率で分化誘導が可能になりつつあり、近い将来、大量の膵島を確保できる技術が確立されると見込んでいるという。(紫音 裕)

(2)http://news.mynavi.jp/news/2014/06/27/116/
    細胞移植で糖尿病を治療できる - 京大がラットを用いた実験に成功

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今回、研究グループは、糖尿病ACIラットの皮下に塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むアガロースロッドを埋め込むことで、移植された細胞や組織片への 免疫反応が起きない免疫特典部位を作成。
また、同部位へ移植したF344ラット膵島(インスリン分泌組織)は免疫抑制剤を投与することなく生着し、100 日を超える観察期間中で血糖値が正常化することも確認したという。
また、研究グループでは、インスリン分泌組織である膵島そのものの確保については、ヒトiPS細胞から高効率で分化誘導が可能になりつつあり、 1-2年のうちに大量の膵島を確保できるようになることが期待されるとしており、今回の技術を活用することで、免疫抑制剤の投与を必要とせず、皮下への移 植であるため、もしもの時でも容易に取り除くことができ、かつiPS細胞による大量の膵島確保ができるようになれば、望むすべての人に治療を提供すること が可能になると期待を述べている。

     主要な新聞やテレビといったメジャーなメディアは、理研の小保方晴子さんが言ったSTAP細胞が本当に存在するのかしないのか、その騒動を連日夢中になって報道していますが、確認実験の結果がどう転ぼうと、その結果は今のところ国民の医療に直接関係する程の問題ではありません。

  それに比べたら、上記の糖尿病治療に関する日本の地道な基礎研究は、近々の内には世界中で巷にあふれる糖尿病の患者さんに福音をもたらす可能性が高いのですから、日本科学の底力を示すものとしてその紹介にもう少し力を注いだ方が、多数の一般読者を抱えるメディアとしては、社会貢献度がずっと高くなると思うのですが、如何なものでしょうか。


2014/7/31