遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.084
γトコフェロールは肺を傷めるが、
αトコフェロールは肺に有益 !

  標題は出来るだけ抑えて穏やかに書きましたが、これは誰にでも分かり易いように端的に言ってしまえば、”キャノーラ油は肺に悪いですけれど、オリーブ油なら肺に良いですよ” ということに他なりませんから、一般消費者にとっては事重大です。

  このお話の出典は、

  

  http://respiratory-research.com/content/15/1/31

Respiratory Research 2014, 15:31 doi:10.1186/1465-9921-15-31

The vitamin E isoforms α-tocopherol and γ-tocopherol have opposite
associations with spirometric parameters: the CARDIA study

という、米国ノースウェスタン大学のJoan Cook-Mills氏ら による長大な最新論文です。

  同氏らの研究チームは、マウスによる以前の実験では、αトコフェロールによって肺の炎症が低減して肺機能が保護される一方で、γトコフェロールによっては肺の炎症と気道の過敏性が悪化することを明かにしました。

  今回の研究では、CARDIA(Coronary Artery Risk Development in Young Adult Study)に参加した4,256人の血漿中のトコフェロールレベルについて分析した結果、γトコフェロール濃度が10μM以上の比較的高値を示したグループでは肺機能が10~17%減少して喘息的な状態になっていたのに対して、αトコフェロールのレベルが高いグループでは肺機能の向上が見られたのです。

  アメリカでは、過去40年間、喘息患者が増加し続けていますが、これはキャノーラ油(あるいは大豆油、コーン油)が心臓の健康に良いということで、食用油としてラードやバターに取って代わった時期に一致しています。そこで、著者等は、今回のデータに基づくと、米国では450万人程がγトコフェロールの摂取過剰で肺機能が落ちているだろうと推算しています。

  この研究を、勿論大学もホームページで、

VITAMIN E IN CANOLA AND OTHER OILS HURTS LUNGS

http://www.northwestern.edu/newscenter/stories/2014/05/vitamin-e-in-canola-and-other-oils-hurts-lungs.html

とPRにこれ努めていますが、下記ニューヨークタイムスの記事

Vitamin E may harm, or help, your lungs

http://well.blogs.nytimes.com/2014/05/29/vitamin-e-may-harm-or-help-your-lung-function/?_php=true&_type=blogs&_r=0

に代表されるように、一般紙もこれを受けて今大騒ぎをしています。

  また、もろもろの科学紙誌も、

http://www.medicaldaily.com/vitamin-e-canola-and-other-cooking-oils-linked-asthma-other-lung-problems-284524

Vitamin E in canola and other cooking oils linked to asthma, other lung problems

に例示されるように、競ってこれを報道しています。試しに、”γ-tocopherol resiratory” の2語をキーワードにして検索してみましたら、もうウンザリする位沢山の記事が出て来てましたから、この一例を挙げるだけでお許しください。

  さて、ところがどうでしょう、何日も何日も小生はじっと待ってみたのですが、日本では、新聞にしてもテレビにしても、メジャーなメディアは何処もうんともすんとも言わないのです。やっと拾い上げたが、

大豆油や菜種油のビタミンEは肺に有害だが、オリーブ油やヒマワリ油のビタミンEは有益 ―米国コホート

http://ggsoku.com/tech/gamma-tocopherol-could-increase-lung-inflammation/

などといった、筆者には甚だ失礼ながら、マイナーなサイトの、辛うじて三つ四つの書き込みだけなのです。このような報道の彼我の差は一体どうしたところから来るのでしょうか??

 

  日本での植物油の消費量は、公式な統計によると、キャノーラ油に代表されるγトコフェロールの多いものと、オリーブ油のようにαトコフェロールの多いものが略々半々です。ですから、上記の研究論文を大々的に報道すれば、競合している食用油のメーカーさんの一方に極めて重大な影響を及ぼしてしまうこと必定です。それ故、それぞれのメディアにとって大事な収入源である広告のスポンサーさんに気兼ねして、各メディアはまるで申し合わせたかのように口をつぐんでしまったということなのでしょうか??

  小生、全くたまたまのこと、この報道の数日前に家の中を整理したのですが、頂戴物のキャノーラ油が出て来ました。 ところが、大分古くなったものですから、植木の肥料にはなるだろうと、こっそりと庭の泥に撒いて捨ててしまいました。

  今や我が家は現代高齢社会の典型的状態である「老々介護」を絵に描いたような夫婦二人だけの生活でして、小生が肉野菜炒めのような料理をよく作ってワイフに食べさせたりするのですが、この際に油はすべてオリーブ油を使っているものですから、私は全く期せずして、このメール冒頭にご紹介した論文をよく勉強したかのような、健康的な生活をしていたことになっていました。

  それにしても、兎に角、Nature や Science のような著名雑誌に載った煌びやかな論文ばかりを紹介するのでなく、生活に密着したこうした地味な研究論文もしっかりと報道して欲しいものです。


2014/6/27