遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.073
オキシトシンが統合失調症薬足り得る可能性は!?

  統合失調症の治療薬の選択肢の幅は現在では非常に広くなり、どの抗精神病薬がもっとも有効で安全か大いに悩むところです。そこで、ドイツ・ミュンヘン工科大学の精神科Stefan Leucht 教授らの研究グループは、利用可能なランダム化比較試験のデータを抽出、統合して、第1世代の2剤と第2世代の13剤、計15剤の抗精神病薬について、有効性と安全性をプラセボと比較して順位をつけてみました。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2813%2960733-3/abstract
The Lancet, Early Online Publication, 27 June 2013 doi:10.1016/S0140-6736(13)60733-3
Comparative efficacy and tolerability of 15 antipsychotic drugs in schizophrenia:
a multiple-treatments meta-analysis

上記の紹介:http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/201307/531630.html
統合失調症治療薬の有効性と安全性に差はあるか RCTのデータを用いたメタ解析で15剤を比較

  医療現場の皆さんはこの結果が大いに気になるところでしょうが、83歳ともなって今では毎日デスクワークだけしている年寄りの小生には、どっちみちどれも効果のある医薬品なので、実は細かい比較はあまり興味が湧きませんで、これで却って、かねがね気になっていた ”我が国では殆ど話題にもならないのは一体全体どうしてなのだろうか” という表題に掲げた問題が益々頭の中に大きく拡がって来ましたので、この機会にご紹介することにします。

  日本の薬学、薬剤師教育にあっては、16局にも収載されている「オキシトシン」は、(脳)下垂体後葉ホルモンとして、末梢組織では平滑筋の収縮に関与し、分娩時に子宮筋の収縮を促進するので、陣痛促進薬として用いられると教えられるだけなので、これが「統合失調症薬」になると聞いたら多くの薬剤師さんはビックリされるのではないですか。

  でも、オキシトシンは女性だけに分泌されているわけではなく、広く生物学的には、俗に ”信頼ホルモン” とか ”愛情ホルモン” とかとも言われ、一般に動物どうしが社会的にうまく機能するために働いていると考えられているのです。

  ※ 新しい良い総説が見当たりませんので、限定された内容の学術論文や、少し古い総説、或いは多少信頼度は落ちるかもしれないメディアの記事など、以下に雑多なご紹介をしますが、一応参考にしてみてください。

  したがって、ヒトでは、統合失調症だけでなく、自閉症など社会的関係不全の状態にも関係があるのではと考えられ、諸外国ではシッカリと研究されているのです。(その紹介は後日にゆずります)

◆ 先ず、最近完了したアメリカの臨床試験には

http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01312272
Does Acute Oxytocin Administration Enhance Social Cognition in Individuals With Schizophrenia?

Purpose
 Individuals with schizophrenia have been found to have deficits in social cognition, which is defined as the functions that are engaged during social interactions. Social cognition has been found to be critical in predicting multiple aspects of community functioning. There are no currently available medications that have been consistently found to improve social cognition in individuals with schizophrenia. Oxytocin functions as a neurotransmitter that is thought to be involved in multiple aspects of social behavior and related emotions. In this study, we test the hypothesis that acute administration of intranasal oxytocin will improve social cognition in individuals with schizophrenia.

があります。

◆ 極く最近の論文では

http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964%2813%2900223-5/abstract
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23676253
Schizophr Res. 2013 Jul;147(2-3):393-7.
doi: 10.1016/j.schres.2013.04.023. Epub 2013 May 12.
Effects of single dose intranasal oxytocin on social cognition in schizophrenia

上記の紹介: http://pathoneko.cocolog-nifty.com/toyomaki/2013/05/post-6147.html
オキシトシン点鼻薬は統合失調症の社会的認知障害を改善させる

◆ 比較的最近の論文では

  ここで特に注目しなければならないのは、オキシトシンが鼻腔内にスプレ-されている点です。投与されたオキシトシンが単純に鼻粘膜から吸収されて体循環に入ったのなら、脳血管関門に障害されて脳神経細胞に到達することはないので、このような生物学的効果が表れる筈はありません。とすると、オキシトシンは嗅上皮から嗅球に至る嗅覚経路を輸送経路として利用したと考えるのが最も妥当なのではないでしょうか。

  この点については、旭川医科大学生理学講座の柏柳誠教授が薬学雑誌上で

https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/132/11/132_12-00229-1/_pdf
嗅上皮の特性と鼻腔内投与による中枢神経機能のマニュピレーション

と詳しく論じておられますので、今まで殆ど論じられていない新しい薬物投与経路として、ブレインストーミングにもなることでもありますので、是非とも皆さんもよくお考えください。

2013/7/31