遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.070
「無料低額診療事業」、病院だけでなく薬局まで拡げよう!

  以下は、2013年4月8日の朝日新聞朝刊「私の視点」欄で採り上げられた保険薬局業務に関する提案です。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201304070297.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201304070297
(私の視点)無料低額診療事業 病院から薬局まで広げよ 金谷貞雄

 貧困と格差の拡大にともない、経済的困難から薬代の自己負担が払えない、また治療を中断するといった事例が増えています。保険薬局の窓口で対応する薬剤師から、そのような患者の自己負担を軽減する制度はないだろうか、と訴えられてきました。

 社会福祉法が制定されたのは、戦後間もない1951年。多数の国民が貧困ゆえに医療機関を受診することが困難でした。そこで経済的理由で適切な治療を受 けられない方々に、安心して治療を受けていただくため、医療機関が患者の医療費の一部負担金の全額、または一部を免除できると定めたのです。

 「無料低額診療事業(無低診事業)」といわれるこの事業は、生活保護の方や一部負担金を免除された方が、その医療機関を受診した全患者の1割以上を占め、かつ、その他幾つかの要件を満たせば、都道府県知事または政令指定都市長から許可を得て実施することができます。

 当時、薬局は病院や診療所の中にあり、患者は薬を院内で受け取っていましたが、74年から政府の医薬分業政策が本格的に推進され、89年には国立病院で 院外処方箋(せん)発行が計画されて、医薬分業が一気に加速しました。その過程で薬局の多くが保険薬局として院外に出たため、「無低診事業」の適用外とな りました。なぜ、こうなったのか厚生労働省は明確な説明をしていません。

 分業率は今では全国で60%を超え、私の住む宮城県では約70%です。患者が院外の保険薬局で薬をもらうことが当たり前になるなか、病院や診療所は自己 負担が全額または一部免除になっているのに、保険薬局では減免できないため、受診自体をあきらめたり治療を中断したりする患者が出ているのです。

 たとえば糖尿病の患者の場合、1回の薬代が1万円を超える場合があります。これは、病院・診療所の2、3倍の負担です。重い負担のために受診を控えたり、治療を中断するなど、まさに、「金の切れ目が命の切れ目」になりかねません。そんな悲劇を起こしてはいけません。

病院・診療所での検査や診断と、保険薬局での投薬がセットになってはじめて、医療が成立することを考えれば、保険薬局にも「無低診事業」を適用させることは、何ら迷う余地はありません。

 今こそ、国・厚労省は患者の実態に目を向けるべきです。切実な声に耳を傾け、保険薬局への無料低額診療の適用を速やかに許可するべきではないでしょうか。
(かなやさだお 保険薬局専務)

  このような状況下にあって、高知市は、2011年4月から独自に、全国で初めて無料低額診療制度利用者に薬代を助成する措置に踏み切りました。

http://www.min-iren.gr.jp/syuppan/shinbun/2011/1507/1507-06.html
「命の問題は自治体の責務 無低患者に全国初の薬代助成」 高知市 岡崎誠也市長に聞く

  しかし、その後こうした措置は残念ながら全国に拡がってはおらず、

http://www.city.osaka.lg.jp/templates/dantaikyogi/cmsfiles/contents/0000181/181447/youbousyo.pdf
大阪市長・西淀川区長宛て「保険薬局に対する無料低額診療事業に関する要望書」
[(有)大阪ファルマ・プラン]

http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1361336592738/files/2503hokenyakkyokumuryoteigaku.pdf
保険薬局への無料低額診療事業に関する意見書(案)
※ この案は、平成25年3月22日、奈良市議会定例会で議決されています。

のように、要望や意見が提出されるレベルに留まっていますので、上記のように朝日新聞が記事を掲載するに至ったというわけです。残念至極です。各地で賛同の運動を起こせないものでしょうか。

  そのための参考資料として、この「無料低額診療事業」(無低診)の法的背景やら、またそれ故の厚労省(担当は生活保護を所轄する「社会・援護局」)の立場やらを、以下に簡単にご説明しておきます。

  無低診とは、社会福祉法の第二種事業と位置づけられている事業で、現在のところ、無低診を実施できるのは病院・診療所・介護老人保健施設の3種類だけで、これらに共通する性格は ”医師が居る” ことです。無低診は、その名の示す通り、この医師の「診療」が事業の柱となっています。

  さてここでいう「診療」とは、診断から治療までの一貫した流れ、すなわち医師が患者を診断して治療に必要な薬を患者に与薬するまでの一連の行為、と定義されています。

  したがって、厚労省は、この事業はあくまで「診療」である以上、保険薬局や、訪問看護ステーション、介護ヘルパーなどの介護事業所は対象にならないというのです。

  何せこの法律は、最初の金谷貞雄さんのご意見にもありますように、医薬分業が全く進展していなかった大昔に作られたものですから、上記のように説明する厚労省でも、当時全然想定できなかった現在の状況からすると、実は何等かの対応をしなければならないという認識は持っているようなのですが、具体的対応の動きが無いままに時間ばかりが過ぎて来たのが実情なのです。

  無低診は、国保44条のように減免した医療費や一部負担金を保険者から還付されるものではありません。あくまでも無低診を実施している医療機関が「持ち出し」(自腹を切る)しなければならないのです。これでは、いくら病院経営が良くても、率先してこの事業に取り組むところは少ないので、国は無低診実施医療機関に税法上の特権を与えています。それは、医療施設の固定資産税や固定資産所得税を減免または免除するというものです。また、別の条件が加われば、法人税も非課税となります。

  この税法上のインセンティブが、皮肉にも保険薬局にとってはネックとなっているのです。すなわち、医療機関は医療法で非営利とされていますが、保険薬局は医療法で医療提供施設と定められているにもかかわらず、運営する法人形態は株式会社や有限会社など営利法人です。ですから、厚労省は、保険薬局に無低診を認める社会的意義は理解できるものの、現行の法制度上では、無低診だからといって営利法人の固定資産税を減免できるものか疑問だというのです。

  以上例示したように、保険薬局での無低診実施には現状いろいろ難しい点があることは確かです。しかしそれだけに、所管の厚労省に重い腰を上げてもらうには、法制度の改正を望む薬局、薬剤師の強い大きな声が絶対に必要です。全国の薬剤師諸兄姉の皆さん、是非とも頑張ってください。

2013/4/30