遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.068
環境に流出した抗不安薬が魚に異常行動をもたらす!

  小生、5年半ほど前になりますか、服んだタミフルが下水処理を潜ってそのまま環境水に出てしまうので、それがインフルエンザ・ウイルスに耐性をもたらす危険性があり、この点で特に世界中で最も大量にタミフルを消費する日本に警告が発せられていることを以下のように紹介したことがありました。

[ 遠藤浩良の雑記帳 ] No.3 タミフルは下水処理で分解できない!

  この研究を行ったスウェーデンのウメア大学の研究陣は、今度は、下水を通じて河川に流出した向精神薬(抗不安薬)「オキサゼパム」と同レベルの濃度の水で野生の川魚”パーチ”(European perch;Perca fluviatilis)を飼育すると、通常は群れをなして外敵の攻撃から身を守っていいる魚が、用心深さをなくして単独行動をとるようになり、勝手に餌をあさるなど攻撃的な挙動に変わることを、米国ボストンで開催された米国科学振興協会(AAAS; American Association for the Advancement of Science)年次総会で報告すると同時に、以下のように、世界的に著名なアメリカの科学誌 Science の2013年2月14日号に発表し、今世界中で大きな話題になっています。

Science. 2013 Feb 15;339(6121):814-5. doi: 10.1126/science.1226850.
Dilute concentrations of a psychiatric drug alter behavior of fish from natural populations.
Brodin T, Fick J, Jonsson M, Klaminder J.
Department of Ecology and Environmental Science, Umeå University, Umeå, Sweden.
Abstract : http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23413353
http://www.sciencemag.org/content/339/6121/814

 この抄録だけでは詳細はわかりませんが、わざわざ30$も払って全文を購入しなくても、更に以下の(1)図表や(2)材料・方法まで見れば、原論文の全容はほぼ分かります。

(1) Figures : http://www.sciencemag.org/content/339/6121/814.figures-only
(2) Materials and methods など Supplementary Materials : 
 http://www.sciencemag.org/content/339/6121/814/suppl/DC1

  ScienceNOW では、この論文を

Drugged Fish Lose Their Inhibitions, Get the Munchies
by Emily Underwood on 14 February 2013
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2013/02/drugged-fish-lose-their-inhibiti.html?ref=hp

と詳しく紹介しています。

  一方、収載誌 Science と並んで世界で最も著名なもう一つの科学誌である英国のNATURE誌も、NATURE/NEWS 欄で

Anti-anxiety drug found in rivers makes fish more aggressive
Behaviour changes result from benzodiazepine levels similar to those in the environment
by Heidi Ledford on 14 February 2013
http://www.nature.com/news/anti-anxiety-drug-found-in-rivers-makes-fish-more-aggressive-1.12434

と、この競合誌の論文を極めて重要な発表として、実験材料とした野生の川魚パーチの写真入りで詳しく紹介し、薬物による環境汚染の重大さを論じています。

  そんな具合ですから、例えば oxazepam perch behavioral change をキーワードにしてググッてみますと、ウンザリする位たくさんの報道が世界中を駆け回っているのが分かります。

  多過ぎますから個々の紹介は止めにして、代表例をロイターにとりますと、以下の如くです。

Perch exposed to human anti-anxiety drugs become isolated, aggressive - study http://www.reuters.com/article/2013/02/15/us-drugs-fish-idUSBRE91E00720130215

  一方、我が国ではどうでしょうか。共同通信が、極めて簡単な記事ですが、ワシントン発で配信していますので、日本では契約している地方紙が各地でささやかに報じてはいます。ところが、大手の全国紙となるとどの社も一様にダンマリです。広告の大スポンサーである製薬企業に遠慮してのことでしょうか。

  そこで、日本語による紹介はあまり目立たないものばかりなのですが、幾つか挙げてみます。

  このように、人間が人間のために開発した筈だった薬物が、時間と共に水中のさまざまな動物の生態変化を引き起こすということになると、進歩を目指した我々は結局のところ当初全く意識していなかった環境変化に手を貸すという大罪を犯すことになるかもしれないのですから、人類への警告として、こうした研究はもっと大きく報じられなければいけないと思います。

2013/2/27