
医師を頂点としてその下に看護婦などを従えるヒエラルキーのもとで患者に医療を施す古い考え方では,“medical staff”とは医師と看護婦で,薬剤師などその他の医療関連職種の従事者は“para-medical staff”と呼ばれてきました。
しかし,“医療とは,患者を中心にして,いろいろな医療職種の人々がそれぞれ専門職能に応じて対等に関わることにより,その時点でもっとも好ましい治療を実施して,最短時間で患者の社会復帰を図ることである”とする新しいチーム医療の考え方では,この“para”という用語は医師に従属する上下関係を意味するのでよろしくないとされました。
そこで,わが国では,これに代わって,対等な役割分担という“協働”の意味合いに多少は近づくかということで,「コメディカル (co-medical)」という用語が広く使用されるようになりました。
私も,今や随分昔のことになりますが,薬学生のために『パラメディカルのための生化学』という大変に勝れた教科書を著された某一流薬系大学の著名な先生に,“薬剤師が自らパラメディカルと言ったら自虐的だよ”と苦言を呈しましたら,早速に第2版からは書名が『コメディカルのための生化学』に改められたことがありました。
でも,実はこの「コメディカル」の語は完全な “japanese English” でして,英語圏の方々には通じません。それは、“co-medical staff”でインターネット検索してみたら、出てくるのは日本語文献ばかりで,英語の資料にはまったくお目にかかれないことでわかります。
この辺の経緯は,コ・メディカル-Wikipediaに要領よく解説されていますので,ご参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%83%AB
こんな時,(社)日本癌治療学会は,2012年1月25日に,「…『コメディカル』という言葉は,医療人が対等に参画することが原則のチーム医療の精神に反する…」ので,「…この用語の使用を原則として自粛…」して,「…薬剤師,看護師,検査技師,放射線技師等といった医療専門職の名称を積極的に使用する…」旨、以下の会告を出し、
「コ・メディカル」という用語の原則使用自粛について
http://jsco.umin.ac.jp/info/comedi.html
これは医師向けのWebサイトでも
「コ・メディカル」使用しないで・・英語では”喜劇的“と誤解も 日本癌治療学会
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1201/1201082.html
para-medical ないし co-medical の側からの要請ではなくて,このように自発的に医師の側からこうした積極的提案が出てくることは大変に意義深いことです。
しかし、医学、医療の領域で影響力の大きい「週刊医学界新聞」(医学書院)
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperTop.do
ですらも、第1面トップの出版書籍(読者)の区分欄に、「医学」(薬学はここに入っています)と並んで、「コメディカル」とあります。
こんな状況ですから、日本病院薬剤師会では数年前から、“メディカルスタッフとして薬の専門家である薬剤師”という言い方を徹底するようにしているとおっしゃるのですが、薬剤師界で責任ある地位にある偉い方々がいまだに平気で“コメディカル”の語をお使いになります。
事実、10月7日、8日に浜松で華々しく開催された第45回日本薬剤師会学術大会でも、今後の医療のあり方としての多職種連携を論じる場ですら、パワーポイントに「コメディカル」が散見されました。
皆さん、われわれ薬剤師自身が、こうした用語の問題には今まで以上に注意を払わなければなりませんね。ちなみに、欧米では、患者を囲む各医療専門職種のすべてが medical staff です。
2012/10/30