遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.063
“No cure No pay”スキーム適用第1号は
”ゾレア“(ノバルティス)― オランダの試み

  日本もその例に漏れませんが、今や途上国、先進国を問わず、世界中の国々が急速に進む医療費の高騰を何とかくい止めようと懸命にいろいろな方策を試みています。

  医薬品などの価格設定や保険償還の可否に「費用対効果」の評価を導入するなどはその典型で、我が国では中央社会保険医療協議会(中医協)の下に設置された「費用対効果評価専門部会」で、2014年度には試行的導入を目指す厚労省と、性急な導入に反対する製薬協などとの間で、今熾烈な論議が交わされていることは皆様ご存じの通りです。

  この考え方、即ち或る医薬品が仮に有効であったとしても、あまりにも高価で、とてもその効果に見合わないと判断される場合には、これを保険償還の対象品目としないとする政策を既に採用している国もあります。

  イギリスはその例で、かってアリセプトをアルツハイマー型認知症患者へ適用しても保険償還を認めないとした英国国立医療技術評価機構(NICE)に対し、エーザイは、これを差別的で違法な措置だとして英国高等裁判所に司法審査を求めた事件は、早や5,6年前のこととはいえ、まだ皆様の記憶に残っていることと思います。

  そのNICE( National Institute for Health and Clinical Excellence )は、この6月、スイスのノバルティス社が、2009年初頭に承認を得た我が国の他、欧米など世界の約70か国で販売している、気管支喘息治療薬ゾレア( Xolair ; 一般名オマリズマブomalizumab )の6~11歳の重症小児ぜんそく患者への適用に対し、費用対効果の視点から、保険償還を拒否する決定を下したのです。

  この方式の欠点は、高額でも有効なら治療を受けたいと思うのにその薬が使えない患者が出て来ることです。これを避けるためにオランダ厚生省の社会保険局( CVZ :Collegevoor Zorgverzekeringen ; 英語なら Dutch Health Care Insurance Board でしょうか?)が極く最近試行を始めたのが” No cure No pay ” scheme です。わが国ではまだ一度も報道されていないようなので、まだこの定訳はありませんが、要は ”薬が効かなかったら、お代はお返しします” というシステムです。

  医薬品以外の商品なら、使い勝手が悪かったら返品が効くのが流通業界ではむしろ当たり前ですから、別に驚くことはないような気がしないでもありませんが、何せ有効率が低くても結構売られてきている医薬品の世界では、一寸驚きです。

  厚生大臣の Edith Schippers 女史は、 BNR Radio で、「 この方式は、長年に亘りいろいろな領域で広く使われてきた安価な薬には特別意味のないことですが、まだその価値が充分に証明されはていない高価な「新薬」 には " good idea ” です。 CVZ は、その薬が患者に有効であったと計測できたらば償還しますが、もし無効だったら製薬会社には請求書を送りますよ。」と語ったのです。

  その適用第1号が上記のノバルティス社の「ゾレア」なのです。CVZ によると、ゾレアは10人の患者のうち3人には無効だが、それでも薬代は年間一人当たり16,000ユーロかかるので、この分の費用はノバルティス社が負担することになるのです。年間総額は 100~200万ユーロと予想され、患者・肺専門医・ノバルティス社の間では既に合意が出来ているとのことです。詳細は以下に例示する報道をご参照ください。

  勿論、これには、「・・・ 10人のうち7人に効くなんていい薬じゃないか! これでもし製薬会社が販売をやめてしまったら、7人の患者は困る!! 馬鹿げた政策だ!」などといった反論もあります。でも逆に、「・・・ 素晴らしいアイディアだから、イギリスでもNHSが採用すべきだ。 ・・・」との投書もあります。

  賛否両論あって当然ですが、我が国では議論の起こりようがありません。何せ全く報道されていないのですから。時にある誤った報道、偏った報道も困り物ですが、今回メディアには "報道しない罪” もあるのではないかと思いました。

  ちなみに、「ゾレア」の値段は、150mgドライパウダー/アンプルが70,503円、4週間ごとに150mgで月7万円余りかかります。IgEレベルと体重から、2週間ごとに300mgが必要な患者さんなら、4週ごとに約28万円が必要になります。こうした高薬価の新薬は本当に費用に見合う価値があるのかどうか、兎に角議論が必要ですから。

2012/9/28