遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.061
カテプシン K を特異的に阻害する
Merck社の骨粗鬆症薬オダナカチブが新登場!

  小生は、かって現役時代には、胚性のまだ軟骨の塊である未分化骨原基を in vitro に培養し、試験管内でこれを石灰化させて立派な骨にまで分化させることを研究テーマにしていましたから、今でも骨粗鬆症薬の開発には多大な関心があります。その視点から、まだ湯気が立っている新しいお話を一つ啓上致しましょう。

  メルク社は2012年7月11日、カテプシンK阻害を機序とする骨粗鬆症治療薬 odanacatib(オダナカチブ)の治験第3相試験結果が、途中解析で良好な成績を示したことから、予定を繰り上げ、早々と試験終了の手続きを開始すると発表しました。

http://www.merck.com/newsroom/news-release-archive/research-and-development/2012_0711.html
Update on Phase III Trial for Odanacatib, Merck's Investigational Cat-K Inhibitor for Osteoporosis     Study met its primary efficacy outcomes at first planned interim analysis and is being concluded early

  なお、この治験薬は、動物実験では、卵巣摘出アカゲザル(Rhesus monkey)を更年期女性の骨粗鬆症モデルとして、良好な結果が得られたことが既に報告されているものです。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22113859
J Bone Miner Res. 2012 Mar;27(3):509-23. Odanacatib reduces bone turnover and increases bone mass in the lumbar spine of skeletally mature ovariectomized rhesus monkeys.

  これでメルク社は、来年前半には日米欧でオダナカチブの製造販売承認を申請する予定だとのことです。それで、欧米のメディアは今この報道で持ち切りで,

http://www.pharmatimes.com/Article/12-07-13/Merck_halts_Ph_III_trial_of_osteoporosis_drug_on_success.aspx
Merck halts Ph III trilal of osteoporosis drug on success

http://www.bioportfolio.com/news/article/1105212/Merck-Announces-Update-On-Odanacatib-Phase-Iii-Trial-For-Osteoporosis.html
Merck announces updae on odanacatib Phase III trial for osteoporosis

http://www.huffingtonpost.com/2012/07/12/odanacatib-osteoporosis-drug-fracture-bone_n_1666631.html
Odanacatib: Osteoporosis Drug Reduces Fracture Risk in Trial

等々、まったく枚挙に暇がありません。

  何せ世界に冠たるメルク社さんのやることですから、世界の骨粗鬆症薬も、ビスホスホネート薬からPTH薬に代わったと思った矢先に、間もなく今度はPTH薬時代からカテプシン K 阻害薬時代に移って行くのかという匂いがプンプンして来ますね。猫も杓子もと言っていい位ビスホスホネート薬に夢中の日本の製薬メーカーさんも戦々恐々のようです。

  でも、 odanacatib オダナカチブ の下記構造を見てください。この biphenyl 骨格は、PCB(polychlorinated biphenyl)の例をひくまでもなく、我々の生体内では極めて分解し難い基本構造ですから、第4相(市販後臨床)に入ったら、思わぬ副作用に見舞われる可能性が大きいのではないでしょうかねえ。(この開発を企図した他社では、そんな内部資料をお持ちのように漏れ聞いています)

Odanacatib (MK 0822) Chemical Structure
Odanacatib20Chemical20Structure20

さて、この odanacatib オダナカチブ の作用点である カテプシン K については、例えば、

「・・・ カテプシン K は破骨細胞(osteoclast)から出る酵素のひとつで溶骨に働く。すなわち、カテプシン K は破骨細胞に特異的に、しかも強く発現するシステインプロテアーゼであり、骨吸収においては骨基質コラーゲン分解に中心的な役割を果たしている。  ・・・・・・・・・・

これらのカテプシン K 特異的阻害剤は、in vitroで破骨細胞による骨吸収を阻害すること、in vivo でも骨吸収マーカーの上昇を抑制し、骨密度低下を防御することが明らかにされてい る。

  そのため、破骨細胞の過剰な活性化による骨吸収の増大、骨破壊を伴う骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症などの疾患へのカテプシン K 阻害薬の効果が期待される。 ・・・」

などと書かれてはいます。

しかし、一方では、

「・・・ このカテプシン K が先天的に欠損すると、骨吸収に障害が生じ、骨軟骨の異常を示す常染色体性劣性の濃縮性骨異形成症(Pycnodysostosis, PDO)と呼ばれる疾患になる。症状としては,骨の硬化,短身長,脆弱な骨が特徴で、前頭部の突出,下顎の異常,二重歯列などが認められる。 ・・・」

などとも書かれています。

  つまり、カテプシン K を抑制すれば、骨有機基質の生理的代謝回転の重要な要素であるコラーゲン線維の分解が進行しなくなるわけですから、生体内の骨組織は必然的に時間と共に劣化して行くことになります。言い換えれば、骨組織の老化(エイジング)が早く進むことになるわけです。

  こう書きますと、もう既にお分かりかと思いますが、小生は、オダナカチブ odanacatib の適用は、良きにつけ悪しきにつけ、結局のところ、ビスホスホネート bisphosphonate の場合と基本的には変わりなく、功罪相半ばする結果になるだろうと思う、ということなのです。

  やはり私は、骨粗鬆症の予防ないし治療において、真っ当に ”功成り名を遂げる” ためには、原理的に言って、骨吸収 bone catabolism を抑制することによってではなく、あくまで 骨形成 bone anabolism を促進することによって達成されるべきであると固く信じているのです。

  そう考えると、骨粗鬆症薬の開発戦争は、局地戦における小さな戦術的勝利があるだけで、大きな戦略的勝利に向かっては、まだまだ道半ばで、ゴールは全く見えていませんね。

2012/7/30