遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.054
ヨーグルトは本当にお腹にいいの?

  我々日本人の日常の食生活は、味噌、醤油に始まり、さらに野菜から魚介類に至るいろいろな素材の漬物などで、ずっと昔から乳酸菌などによる各種発酵食品のお世話になって来ましたから、戦後 ”整腸作用が体に大変よろしい” という触れ込みで外国から入って来たヨーグルトは、同じ発酵食品ですから、昭和25年に本格的国内製造が始まると、かなり短期間の間に何の抵抗もなく素直に我々の食生活に定着しました。

  私の食事も今ではかなり洋風になり、朝はパン食で、これにはバナナ1本を細かく刻んで入れたヨーグルトが必ずたっぷりと添えられます。このお蔭で私の腸内細菌叢は何時も極めて良好な状態に保たれているのだと信じています。

  しかし、インターネットで調べてみますと、そうした個人的な "感想” や ”信念” は山ほど出て来るのですが、この考え方を科学的に証明する確かな ”エビデンス” となると、実はほとんどお目にかかれません。もちろん、名だたる乳業会社はそれぞれにそれなりの資料を ”研究レポート” の形で提出してはいるのですが。

  そんな状況下、実際ヨーグルトにはそれほどの効果を期待できないのかもしれないという研究結果が、最近とみに注目を浴びている米国の新しい医学誌 Science Translational Medicine に

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/22030749

http://stm.sciencemag.org/content/3/106/106ra106

    The Impact of a consortium of fermented milk strains on the gut microbiome of mice and monozygotic twins

Sci. Transl. Med. 2011; Oct 26, 3 (106) : 106ra106

として発表されたのです。

  すなわち、米国ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学の Nathan McNulty 氏らは、腸内細菌の多様性、腸内環境の個人差などの要因で実は厳密な実験の実施が難しいという困難な課題に対処するために、ヒトでは一卵性双生児(成人女性の7組)を、動物実験では無菌マウスを用いて、ヨーグルトの摂取が腸内細菌に及ぼす影響を綿密に調べました。

  具体的には、双生児の一方に5種類の乳酸菌を含む市販のヨーグルルトを1日2回、7週間にわたり食べさせ、他方にはヨーグルトを食べないように指示し、その間と前後4週間、定期的に採取した大便中の細菌の種類や、細菌中で活性化されている遺伝子を検討しました。その結果、いずれの指標についても、双子の間に違いが認められなかったのです。

  また、無菌マウスの腸内に15種類のヒト腸内細菌を定着させて、その活動に対するヨーグルトの影響を調べましたが、ヒト同様に違いを認めることは出来なかったのです。(ただ、糖分解酵素群遺伝子の活性化に僅かの差が認められはしましたが)

  もちろん、ヒトの実験では僅かに双生児7組と被験例数が少な過ぎる点、また動物実験では人間の腸内細菌がマウスの腸内でもヒトの腸内と同様の挙動をするのかどうかという疑問がある点など、多々問題点がありますから、この研究結果だけで ”ヨーグルトに効果なし” との結論を引き出すのはもちろん時期尚早であります。

  それにしても、ちょっとガッカリした方は多いのではないかと思いますが、我々の ”信念” から来る日常生活上の ”常識” には意外に穴があるのかもしれません。でも、別にエビデンスはなくても、それが何か生活に実質的な悪影響を及ぼしているのでない限りは、それはそれで良しとしていいのかもしれません。でも、考えてみると、科学者の立場としては結構難しい問題ですね。

  ですから、この論文は市民の日常生活の科学性に関する格好の話題だと思ったものですから、”yogurt twins” で検索してみましたら外国の報道は実に沢山出て来るのに、日本語で検索したのでは何も出て来ませんでした。でも、その後一所懸命に探したら、やっと以下の2つ

が見つかるというまことに淋しい状況でした。

  我が国の新聞やテレビというマスメディアは企業収入の過半を広告に頼っていますが、その中で乳業会社の商品は大きな存在ですから、これに疑問を呈する上記の論文についてマスメディアは遠慮して報道しないのかもしれませんね。

2011/12/26