遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.053
ビスホスホネート薬の副作用 
― まれではあるものの重篤な眼疾患について

  小生は、かつて現役の生物系基礎薬学研究者であった時代には、薬系大学で「生理化学教室」と称する研究室を主宰し、生体内の代謝を実に巧妙に調節しているる典型的な生理活性物質であるホルモンの作用機序を、組織培養法を利用して細胞のレベルで解明する研究をしていました。

  そんな中で、高等動物体内には全く存在しない -C-P- という原子間結合を2つも持つ -P-C-P-なる化学構造を基本とする、典型的な非生理的物質であるビスホスホネート(bisphosphonates)が、破骨細胞による骨吸収反応を抑制する新しい骨粗鬆症治療薬として登場した時、自身で開発した培養骨を用いた in vitro 実験系で調べてみたら、それまで ”生理的な活性物質” では経験したこともないすごい低濃度で見事に活性を発現するのに、なるほど ”非生理的な生体異物” である薬理活性物質ならかくもありなんと妙に納得したものでした。

  しかし、これを薬として適用したときには、非生理的な化学結合であるが故に ”non-metabolizable”な bisphosphonate は、それに曝される我々の体の細胞にとっては、化学構造からすると生体の常成分である diphosphate に酷似した物質ですから、ついつい騙されて気軽に呑み込んでしまったら、まさに ”煮ても焼いても食えない” 代物だったというわけです。体中の細胞はさぞかし大慌てをすることになるでしょう。

  という訳で小生は、ビスホスホネートは、如何に高い薬効を期待できるにしても、基本的には極めてリスクの大きいて薬物なので、慎重なうえにも慎重な使い方が必要な医薬品であることをこれまで繰り返し強調してきました。この「雑記帳」でも、これまでの52回のうちでNo.1940,および44の4回、ビスホスホネート薬の副作用についてお話してきました。

  くどくて申し訳ありませんが、もう乗りかけた船ですから、今回もまた、稀ではあるものの重篤なビスホスホネート薬の別な副作用である眼疾患についてお話しをしましょう。

  先ず、最新の公的情報として、国立医薬品食品衛生研究所・安全情報部が発信する「医薬品安全性情報」Vol. 9 No.22 (2011/10/27) http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly9/22111027.pdfをご覧ください。

  10-11頁に、ニュージーランド政府の MEDSAFE (Medicines and Medical Devices Safety Authority)が発行している保健医療従事者向け専門誌 Prescriber Update 32(3) 24 (September 2011) の

ビスホスホネート系薬:まれではあるが重篤な眼内炎症に関する注意喚起
  Reminder: Keeping an eye on bisphosphonates
http://www.medsafe.govt.nz/profs/puarticles/bisphosphonatessept2011.htm

が詳しく紹介されています。

  これは、ニュージーランドのダニーデンにある国立医薬品副作用モニタリングセンター( CARM :TheCentre for Adverse Reactions Monitoring)が、2011年6月30日現在で受けたブドウ膜炎の症例報告28件のうち、ビスホスホネート系薬と因果関係があると評価された8件について、関連文献を挙げて解説したものです。

  しかし、ニュージーランド政府のMEDSAFE を通じての同様の警告はこれが初めではなく、「医薬品安全性情報」Vol. 4 No.13 (2006/06/29) http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly4/13060629.pdf21-23頁の「Alendronate :炎症性の副作用」の中でも、”眼痛または視力障害がみられた場合には受診すること” の項で触れられています。

  また、この種の警告を発したのはニュージーランドだけではなく、既に2003年9月にカナダ厚生省も

Canadian Adverse Reaction Newsletter Vol.13, Issue 4, October 2003 (2003.9.25)

http://www.hc-sc.gc.ca/hpfb-dgpsa/tpd-dpt/adrv13n4_e.pdf

http://www.hc-sc.gc.ca/hpfb-dgpsa/tpd-dpt/adrv13n4_e.html

Bisphosphonates and ocular disorders (ビスホスホネートと眼疾患)

と、同国内のビスホスホネートに関連する眼疾患と疑われる27件の報告をとりまとめて表示し、詳しく説明しています。

  これは、随分前になりますが、 2003年11月の「医薬品安全性情報」Vol. 1 No.32 (2003/11/14) http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly/32031114.pdf の4-5頁に、「ビスホスホネートと眼疾患 [ カナダ Health Canada ] 」として紹介されています。

  こんな状況ですから、勿論のこと、わが国でもビスホスホネート薬の添付文書の副作用の項には眼疾患も記載されてはいます。でも、わが国では諸外国ほどには注目されていないのが少し気になっています。

  これが、眼の充血、羞明、眼痛、視力低下、霧視、飛蚊症など、ブドウ膜炎の一般的な症状から被疑的な状況を比較的把握しやすいので、ビスホスホネート薬による副作用としての眼内炎症が 重篤化する前に、眼科医による検査と治療を受けるよう薬剤師による受診勧奨が確実に行われているので、医薬品の副作用による健康被害が未然に防止されているからならよいのですが。