遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.051
「病院薬剤師業務の一つである放射性医薬品の調製」
 について想うこと

   薬事法に定められている医薬品の一つなのだから本来は薬剤師が調製し、管理しなければならない筈の「放射性医薬品」が、これを用いた検査や診療が行われている医療の現場では、医師や薬剤師の手を離れて、実は大半の病院では放射線技師の手に任されているという隠れた実態が、たまたま2011年9月1日付け朝日新聞朝刊がトップで報じた ”山梨の市立甲府病院ではテクネチウム(99mTc)を使用した腎シンチグラフィにより小児の過剰な放射線被曝が常態化” していた例から、やっと明るみに出て市民の目に映ることとなりました。もう1月も経ちこれまでに随分報道もされましたから、皆さん既に既に十分ご存じだろうとは思いますが、念のため幾つかの報道や書き込みを以下に例示します。

http://www.asahi.com/health/feature/kajohibaku0901E_01.html
http://www.asahi.com/health/feature/kajohibaku0901E_02.html
http://mainichi.jp/area/yamanashi/news/20110909ddlk19040118000c.html
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201109/521381.html
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/33075282.html
http://blog.livedoor.jp/genta_kamiyama/archives/cat_1495078.html

  こんな状況下、以下に報じられているように、実は日本病院薬剤師会も遅ればせながら既に動きだしていました。

  Risfax【2011年9月9日】 日病薬 放射性医薬品、薬剤師が「積極的に」と呼び掛け

 日本病院薬剤師会は8日、放射性医薬品を用いる業務について、薬剤師が「積極的に取り組む」ようホームページなどを通じて会員に呼び掛けた。6月10日に日本核医学会、日本放射線技師会、日本核医学技術学会、日病薬で放射性医薬品に関する薬剤師の役割を明示したガイドラインを策定。従来は、主に診療放射線技師 が業務を担っていたのが実態だったが、GLに従って「薬剤師が調製、管理、運営 に責任を持つ体制を早急に作る」ことを要望した。
 山梨県の市立甲府病院で、放射線技師による放射性物質「テクネチウム」を含む医薬品の過剰投与が常態化していたことを受けて見解を示した。同病院の3日の発表によると、腎臓の部位別機能を画像で評価する腎静態シンチという検査を 99年5月?11年5月までに15歳以下の小児145人に対して実施。そのうち28人に日本 核医学会の推奨投与量の10?20倍、10人に20?30倍が投与されるといった状況があった。
 日病薬は、多くの病院では薬剤師が少ないため、放射性医薬品に関する役割を「診療放射線技師に任せてきた」経緯があると指摘。甲府病院の事例を踏まえ 核医学検査や治療に薬剤師が「もっと意欲的に取り組むことが極めて重要だ」としている。

  ちなみに、上記記事中にある「ガイドライン(GL)」とは

「放射性医薬品取扱いガイドライン」 平成23年6月10日
  日本格医学会、日本核医学技術学会、日本放射線技師会、日本病院薬剤師会
 http://www.jshp.or.jp/cont/11/0610-1.pdf

で、「呼び掛け」とは

ガイドラインに基づく放射性医薬品への積極的取り組みを要請する (放射性医薬品調製ガイドライン講習会への参加要請) 一般社団法人 日本病院薬剤師会 会長 堀内 龍也
http://www.jshp.jp/2011radio/

のことです。

  実態はこのようであるにもせよ、薬系大学における薬剤師教育にあっては、現行の法律に従って 型どおりの授業はしなければなりませんから、薬学の教科書では、例えば

放射化学・放射性医薬品学(薬学テキストシリーズ)朝倉書店
  小島周二・大久保恭仁 編著、B5 264頁、¥5,040 2011年5月15日
http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-36265-7/

では、”第II編 放射性医薬品”で全編の2/3を占める位に詳細に解説されています。

  もちろん病院の現場でも、薬剤師による適切な医薬品の取り扱いに対して社会の注目が集まっている昨今ですから、「放射性医薬品管理者」として薬剤師を充てる動きは遅ればせながらようやく始まっています。東京医科大学病院(東京都新宿区)の例を以下に挙げてみます。

【Next ステージ】放射性医薬品を全面的に調製 ー 調製票と鑑査でミスが減少
http://www.s-mpro.com/news1223.html?PHPSESSID=bd7ea80ed8322723a58ddfd0c88bc1e9

  しかし、このような薬剤師の業務は、何も今に始まったことではなく、核医学の発展に伴って内容のディテールは変わってきたにせよ、実はずっと昔からあったことですから、小生は、昭和52(1977)年、帝京大学薬学部創設に参画し、理想的な薬剤師教育を実施すべく教務委員長としてカリキュラム編成の責任を負ったとき、理事長・学長を兼務する”帝京大学総長”に要求した事項の一つは次のようでありました。

「薬学部を卒業して国家試験に合格したなら、ポッと出の新人薬剤師といえども、すべて法的には ”放射性医薬品を扱える” 資格者になるのだから、薬学部学生は全員が「放射性医薬品」に関する実習を受けていなければならない。したがって、帝京大学が薬学部を新設するに当たっては、そのために十分な機器と設備を備えた実習室を準備しなければならないのは当然のことである。」

  これには、定員の多い私立大学ですからそれに見合った広い実習室と膨大な設備投資が必要で、更にその維持管理には毎年多大な経常費を要するので、既設の薬系大学では、「放射性医薬品」の実習を設けないところが多く、カリキュラム上に実習科目を設けてある大学でも、せいぜい定員が極く少数の選択実習としているのが普通でしたから、常識的には、上記の要求は大学経営者に対する新入り教員の我儘とも言うべき過大な要求でした。

  でも、これをとうとう通してしまったたのですから、神奈川県津久井郡相模湖町(今では相模原市緑区ですが)というまさにど田舎の新設大学を訪ねてくださる奇特な方がおられると、「放射性医薬品学」の実習施設は帝京大学薬学部教員が先ず最初に胸を張ってご案内する自慢の目玉の一つでした。

  帝京大学薬学部は、来年2012年4月から、医学部と付属病院、それに医療技術学部もある東京都板橋区に全面移転して新しい薬剤師教育を始めますから、そこに新設される3学部共用の素晴らしい RI 施設では、上記の学部学生教育が再び華開き、おそらく更に病院薬剤師の放射性医薬品調製研修の受託も行われることになるでしょう。

  こうしたことから、奇しくも今回の市立甲府病院の不祥事から顕在化した、法の規定から乖離した病院薬剤師業務の実態に照らし、若かりし頃の小生の考え方はやはり正しかったのだということをあらためて想い起こし、今ひとしお感慨に耽っているところです。