遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.049
未承認薬のCU制度創設を提起する新刊書紹介

  以前、No.33において、「未承認薬のコンパッショネート使用」と題して、寺岡章雄・津谷喜一郎両先生の、42頁に亘る長文なので読み通すのも大変な総説ですが、類書がない点では本当にかけがえのない実に貴重な論文である

「未承認薬のコンパッショネート使用 ― 日本において患者のアクセスの願いにどう応えるか」
薬理と治療 38巻 (2号)109?150 (2010)
http://www.lifescience.co.jp/yk/jpt_online/109-150.pdf

と、さらにそれを寺岡先生ご自身が読み易くA4判2枚半程度に要約してくださった

「未承認薬のコンパッショネート使用」の早期制度化を
http://medg.jp/mt/2010/03/vol-91.html#more

を皆さんにご紹介しました。

  寺岡先生は、1962年京大薬学部のご卒業ですから、この時点では、還暦を越えて母校京都大学の大学院に再入学され、医学研究科健康情報学教室(中山健夫教授)に在籍して勉学を続ける熱意あふれる大学院生でした。

  先生は、その後古希を迎えてなお衰えぬ情熱で東京大学大学院に進まれ、現在は薬学系研究科医薬政策学教室で、”くすりギャップ”(いわゆるドラッグラグなど)の問題を研究テーマとしてきた津谷喜一郎教授と共同で、この「未承認薬のコンパッショネート使用」問題を更に深く追求しておられます。その熱情には全く頭が下がります。

  このほど、この齢に負けない素晴らしい情熱の成果の一つとして、上記総説執筆後の調査研究結果を加筆して内容を大幅に豊かにし、さらに今度は、医薬学関係者だけでなく一般の読者をも対象として、出来るだけ分かり易く詳細に解説された素晴らしい単行書が見事にまとめられ、下記の通り出版されました。

「日本で承認されていない薬を安全に使う ― コンパッショネート使用制度」
寺岡章雄・津谷喜一郎 著、(株)日本評論社、東京、2011年6月25日
四六判 216頁、定価 2,310円(税込み) ISBN : 978-4-535-98350-2
http://www.nippyo.co.jp/book/5610.html
http://bookweb.kinokuniya.jp/htm/453598350X.html

  まだ書店店頭に平積みで湯気が立っている新刊書の”帯”には、

【表側】抗がん剤など未承認薬の使用が必要になった時、私的な「個人輸入」ではない、公的制度としての「コンパッショネート使用」(CU)制度が存在する。世界各国のCU制度の現状と、日本のCU制度創設へむけての提言。

【裏側】CU制度についての Q & A(第4章より抜粋)
●CUは「販売承認の迅速化」とどういう関係にあるのか?
●対象となる未承認薬をどこから入手して患者のアクセスを可能とするか?
●CUで用いられる未承認薬の品質をどう確保するか?
●高価な未承認薬の患者負担の軽減をどのように図るのか?
●CUにおける健康被害をどのように救済するのか?

と紹介されています。

  コンパッショネート compassionate を英和辞典でひくと、「慈悲深い」とか「温情的な」とか訳されていますので、この ”未承認薬のコンパッショネート・ユース compassionate use” の場合は、”現在承認されている治療薬をすべて使い果たし、もはや施す術を失った患者さんに、なんとか希望をつなぐ最後の手段として使う” という考え方ですから、簡単に言って ”人道的使用”と意訳されたりするわけです。

  小生は大腸がんと胃がんを切除しましたが、幸い極くオーソドックスな癌だったものですから、化学療法も保険のきく薬ですみました。しかし、日本は今や2人に1人が癌になり、3人に1人は癌で死亡する時代ですから、小生の周囲には、手ごわい癌でまさにこの「未承認薬のコンパッショネート使用」(”compassionate use of unapproved drug”)を使えればいいのだがというケースに多々遭遇しました。

  そうした場合でも、治験の被験者になるには ”未治療” の条件があるなどの困難がありますし、ましてや我が国では治験すら始まっていない薬については ”個人輸入” するしか手段がないため、高額な自己負担の問題が生じたりしますので、ご本人やご家族にそんな薬があるということはお話すらできないという不本意なことが結構ありました。

  こうした状況下で、2007年7月には厚生労働省の「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」が ”CUを日本に導入する検討を開始するよう” 求めたのですがその後なかなかに事は運びませんでした。

  そして、さらに2010年4月には、厚生労働省の 「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」 が、報告書の中で”CUなどの人道的な例外的使用システムの構築”を提案しました。

  こうした動きを受けて、本2011年の3月22日から始まり、現在は第8回の審議まで進行している 「厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会」では、議事録を読む限りでは、CU制度へ向けての委員の発言に対し、行政側からは必ずしも積極的でない発言があるように見受けられはするるものの、メディアの報道では、例えば

http://www.yakuji.co.jp/entry23188.html
【厚労省】開発中の医薬品アクセスで新制度創設を提示
         2011年5月30日 薬事日報 HEADLINE NEWS

厚生労働省医薬食品局は27日、致死的な疾患や日常生活に著しい支障がある疾患で、代替治療がない場合に、治験の参加基準から外れた患者が、開発中の医薬品にアクセスできる新たな制度を創設することについて、厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会に示した。 ・・・・・

 現在、未承認や適応外の医薬品を使用するには、治験や臨床研究に参加できない場合、個人輸入するしか手段がない。ただ、個人輸入だと、安全性の問題が懸念されるため、薬害肝炎検証検討委員会が、欧米のコンパッショネート・ユースのように、人道的使用を例外的に認める枠組みの構築を提言していた。政府の規制・制度改革対処方針でも対応が求 められている。
 厚労省は新制度について、「倫理性や安全性の確保に加え、副作用報告等も含めて適正な管理を行うべき」と指摘。「企業による承認取得のための開発を阻害しない制度」「患者、医師(医療機関)、企業がそれぞれ応分の負担やリスクを受け入れ、相互に協力できる制度」を目指すという。 ・・・・・・・・・・

のように、CU制度創設の方向性はもはや明らかであるよう報じられています。

  という次第ですから、本書は非常にタイミングよく出版されたわけでして、初めに挙げた総説にドイツ、カナダ、オーストラリア、およびスペインについて加筆され、さらに近年とみに発展の著しい隣国の韓国については、本年初めの2回の現地調査の結果から、我が国の遅々とした動きを遥かに越えて進む最新の動向が記載されていますので、本邦初の文字通り類書を見ない、CUに関する唯一最新の書籍なのです。

  それ故、既発売の医薬品では救われない患者さんのためのコンパッショネート使用制度が我が国でも早急に創設されるよう、是非ともこの本が大いに役立つことを期待しておりますので、皆さんにも本書の普及に絶大なご支援をお願い申し上げるものであります。