遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.048
日本が諸外国に優れる”健康に不可欠なヨウ素摂取状況”

 先号の「雑記帳」では「乾燥甲状腺」のヨウ素含量規格にみる日局とUSPの差についてお話しましたが、その続編として今号では、我々日本人の食生活が、甲状腺ホルモン産生のために不可欠なヨウ素摂取の観点からすると、諸外国に比べて如何に勝れているかについてお話しましょう。

 先のNo. 47 でお話したヒトにおけるヨウ素欠乏状態は、実は決してアメリカのような大陸に限られた問題ではありません。この点を指摘する一番新しい論文としては、

Vanderpump MP et al. Iodine status of UK schoolgirls : a cross-sectional survey.
The Lancet, Early Online Publication, 2 June ,2011
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960693-4/abstract

※ 日本語紹介:10代の女子生徒、過半数がヨウ素欠乏状態、英国調査
http://www.m3.com/open/thesis/article/11306/

があります。

 すなわち、日本と同じ狭い島国の英国のことですが、14―15歳の女子生徒810人の尿中ヨウ素含量を調べたら、51%が軽度、16%が中等度、1%が重度と、何と7割近くの少女がヨウ素欠乏状態にあると判明したというのです。

 皆さんも一度 “iodinedeficiency” をキーワードにして検索してみてください。世界中のヨーソ欠乏に関する記事が、比喩的に言えば文字通り“五万”と、実際は百万件以上も出てきてうんざりします。それ程ヨードの欠乏は世界中で大問題になっているのです。特に、妊婦がヨウ素欠乏になると、胎児の脳の発育が遅れてしまうのですから大変です。

 我々日本人は一般にヨウ素含量が高い海産物、特に海苔、わかめ、昆布などの海藻類をよく食べるためヨウ素欠乏は問題になりません。そのように我々はヨウ素摂取に関しては世界中で最も優れて幸福な民族であるため、ヨウ素欠乏を論じた日本語の論文は見当たりませんので、外国の総説を幾つか以下にご紹介します。

 そんな状態ですから、ヨウ素欠乏を防ぐために、外国では一般に食卓塩として、日本には見当たらない ” iodized salt ”(ヨウ素添加食塩)を使っています。その必要が無い我が国では、食品添加物としてヨウ素は許可されていませんので、こうしたヨウ素添加食塩の製品が市場に存在しないのは当然なのです。

 ところが、例えばお隣の中国は広大な大陸の国ですから、7億の民がヨウ素欠乏状態にあるといわれ、それ故、食塩へのヨウ素添加が法的に義務付けられていますので、海に近い都会の北京、上海、広東などでもヨウ素添加食卓塩が売られています。

 そこへ今度の東電福島第一原発の大事故が報道されたものですから、風に乗って日本から飛んでくるヨウ素131による放射能被害を防ぐには安定ヨウ素を摂るのがいいとの話があっという間に市中に広がって、食卓塩に添加されたヨウ化ナトリウムの含量では何の効果もないのに、殺到した市民の買い占めでスーパーマーケットの棚からあっという間に食塩が消え、食塩の価格は数倍にはね上がったと報道されています。

福島原発事故で中国が塩パニック、食塩のヨウ素が被ばく防ぐとデマ
2011年03月19日 10:20 発信地:北京/中国
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/disaster/2791206/6971263

 こうしたデマに惑わされるのは困りものですが、我が国とて、ヨウ素131の甲状腺蓄積を防ぐのにルゴール液を飲むのがいいとかという話がまことしやかに伝えられたりしたのですから、決して中国を笑えませんが。

 こうしたデマほどではないにせよ、今回の東日本大震災の救援にボランティアとして被災地におもむいた薬剤師さんの中には、当然の如く”安定ヨウ素剤”を服用された方もいらっしゃったようですが、生半可に飲んでヨウ素過剰摂取になると甲状腺機能低下を来たしますから、

ヨウ素(ヨード)過剰摂取の危険性について
http://kodomo-kenkou.com/cretin/info/show/627

のように、これも結構難しい問題です。

 このように我々は正しい情報を収集することに努める必要がありますが、日本の新聞やテレビの報道は一般に遅い上に非常に偏りがありますから、刻々と進行する事態を広く、客観的に、正しく把握するためには、例えば以下に示すような、日本の当事者の発表あるいは国内メディアの報道とはまた違った視点からの外国の報道にも目を配っておくのが有効であろうかと思いますので、ヨウ素の問題からは離れて一般論としてご紹介しておきます。

  • 福島原発事故 海外メディアの報道から 2011年3月13日
    http://blogs.yahoo.co.jp/success0965/11405307.html
  • 日雇いで放射能に立ち向かう労働者たち 2011年4月19日
    http://d.hatena.ne.jp/kentao/20110419/p2
    原文 New York Times
    http://www.nytimes.com/2011/04/10/world/asia/10workers.html
    Japanese Workers Braved Radiation for a Temp Job
  • 「退職者たちの行動隊」、フクシマの若い労働者たちに交代を申し出 2011年6月19日
    http://d.hatena.ne.jp/kentao
    原文 ル・モンド
    http://www.lemonde.fr/imprimer/article/2011/06/06/1532374.html
    Au Japon, le “Corps des veterans” sepropose de remplacer les jeunes salaries en poste a Fukushima

    彼らの数は250人近い。年齢は60代かそれ以上。・・・ この人々の中には、技師も、医師も、あるいは単なる労働者もいる。彼らはみな、山田恭暉氏(72才)の呼びかけに応じた。彼は住友金属工業を定年退職した技師だ。燃料棒の一部が溶解している2号機、3号機のそばで、毎日交代しながら働いている人々をテレビで見た山田氏は、何かしなければ、と思い立ったのである。
    彼は、今日ではその欠陥が明らかとなった原子力政策を「意図的にせよそうでないにせよ」支持したのは自分の世代であり、またその結果を引き受けなければならないのもこの世代であって、原子炉を安定させるために送り込まれるのは若者たちであってはならないと考えている。彼は言う。「これは決死隊なんかじゃありません!私たちの寿命は、あと15年から20年くらいといったところでしょう。放射能による癌が進行するほどの時間は残されていないのです!」
    彼の呼びかけがなされた後で、247人の退職者たちが、自分たちの責任感を表明するべく意思表示を行った。こうして「退職者たちの行動隊」が誕生したのだ。  ・・・・・  ・・・・・