遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.044
ビスホスホネート薬の逆説的副作用としての
大腿骨幹部非定型骨折 ! !
――  PPI の副作用から十分に予期されたのでは?

  骨を強くするためにビスホスホネート系薬剤を長期に連用している骨粗鬆症の患者さんに、極く稀とはいえ、著しくQOLを下げる顎骨壊死というまるで逆説的な副作用が現れる場合のあることについては、これまで何回かお話してきました。

  ところが、更に困ったことに、同様にビスホスホネート薬を長期連用した患者さんの大腿骨の骨幹部に、普通では見られない非定型的な横断型の骨折が稀に起こることがわかり、欧米では強く注意が喚起されるようになりました。

  そこで、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部は、「医薬品安全性情報」(http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/index.html ) に、各国の規制機関情報として、Vol.7 No.09( 2009/04/30 ) においては英国MHRA による 、また Vol.8No.09( 2010/04/28 ) においては米国 FDA による、この点についての警告や助言を詳しく紹介してきました。

  こうした情勢を受けて、厚生労働省は昨2010年6月1日付けで、製薬企業にビスホスホネート製剤の添付文書の副作用欄にこの旨の追加記載を指示しましたので( http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20100601.html における No. 20, 21 および 22 など )、現在は「重要な基本的事項」の7番目に、

ビスホスホネート系薬剤を長期使用している患者において、非外傷性の大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部のストレス骨折が発現したとの報告があるので、X 線検査等を実施し、十分に観察しながら慎重に投与すること。この骨折では、X 線検査時に骨皮質の肥厚等、特徴的な画像所見がみられ、完全骨折が起こる数週間から数ヵ月前に、罹患部位の前駆痛があるため、そのような場合には適切な処置を行うこと。また、両側性の骨折が生じる可能性があることから、片側で骨折が起きた場合は、他方の大腿骨の画像検査も行うこと。

遠藤 ”注” : 関連最新文献

(1) Femoral shaft fractures in the elderly
    ― Role of prior bisphosphonate therapy
    Injury. 2011 Feb 10 [ Epub ahead of print ]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21316051?dopt=Abstract

(2) Bilateral simultaneous femoral diaphyseal
    fractures in a patient with long-term ibandronate use.
    Orthopedics.2010 Oct 11;33(10):775. doi: 10.3928/01477447-20100826-31.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20954650?dopt=Abstract

と記載されてはいます(ただし、これまで何回かご紹介してきた”顎骨壊死”のように 『重大な副作用」』として特記するには到っていません)。 

  この点に関連して、本2011年2月15日から3日間にわたって、メディカルトリビューン社は ”医師のための専門情報サイト MtPro” で、

(1) ビスホスホネート非定型骨折を考える <1>臨床像
    両側性に発生,痛み・皮質骨肥厚などの前駆症状を伴う
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1102/1102022.html

(2) ビスホスホネート非定型骨折を考える <2>発生機序
    過剰な骨代謝回転抑制に加え,大腿骨の形状も関与か
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1102/1102023.html

(3) ビスホスホネート非定型骨折を考える <3>対応策
    大腿骨や股関節に痛みを訴えたら,膝までのX線撮像を
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1102/1102024.html

と、専門家への取材に基づいたかなり詳しい論説のシリーズを組んでいます。

  以上のような経緯から推測すると、骨を強くして骨折を予防するはずの骨粗鬆症薬ビスホスホネートが逆に大腿骨骨幹部の骨折を惹起するという副作用は、骨の専門家である整形外科医でも全く予知し得なかったほど奇異なことと考えられるかのように見えます。でも、本当にそうでしょうか? 実は小生には、そうとは思えないのです。

  と申しますのは、小生は、消化器内科においてプロトンポンプ阻害薬(PPI)による胃潰瘍の薬物療法で副作用として起こった予期せぬ骨折の経験から類推すれば、このビスホネート薬の副作用は、決して逆説的なものでなく、むしろ当然の如く予期されて然るべきことであったように思えるのです。

  すなわち、問題提起は、米国の研究者が英国のデータベースの資料を用いて、PPI の長期服用は、特に高用量において、股関節部骨折のリスクを増加させることを示唆した2006年のJAMA誌収載論文

抄録: http://jama.ama-assn.org/content/296/24/2947.abstract
全文 Pdf :http://jama.ama-assn.org/content/296/24/2947.full.pdf+html
Long-term Proton Pump Inhibitor Therapy and Risk of Hip Fracture
JAMA 296(24) 2947-2953 (Dec 27, 2006)

に始まります。もっとも、本論文の著者らは、この PPI 副作用 の機序として、胃酸の分泌低下状態で起こる消化管でのカルシウム吸収阻害を考えていますが、小生はこれは違うと思います。

  というのは、ヒトの体内で生理的にプロトンポンプが強力に稼働している細胞は、決して胃酸を分泌する胃の壁細胞だけに限りません。骨組織の破骨細胞も負けず劣らずにその典型です。したがって、PPI が酸分泌細胞としての破骨細胞機能を抑制することにより、服薬以前はバランスのとれていた骨組織の代謝回転が骨芽細胞による骨形成優位の状態になったら、骨代謝は結果的に骨硬化症(osteopetrosis)の方向に傾きます。そのため、身体に外力が加わった際に骨がたわまなくなったら、硬くなり過ぎてしまった骨は当然折れ易くなります。ですから、この副作用は、PPI の破骨細胞への直接的抑制作用に基づくものと考えた方が自然だと思います。

  ちなみに、破骨細胞が働かない先天的な遺伝性疾患の骨硬化症として大理石病 [参照:http://www.e-clinician.net/vol47/no490/pdf/sp_490_15.pdf](marble bone disease [ cf:http://www.britannica.com/EBchecked/topic/ 364003/marble-bone-disease)が知られており、その症状の一つに骨硬化による易骨折性があります。

 また、飲料水中のフッ素過剰によって起こる地方病性のフッ素症[参照http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E3%81%AE%E3%83%95%E3%83%83%E7%B4%A0%E7%97%87 ] (fluorosis [ cf.:http://www.who.int/water_sanitation_health/diseases/fluorosis/en/)においては、骨質が通常のヒドロキシアパタイトより硬過ぎるフルオロアパタイトで形成されたことによる骨硬化症でかえって骨が折れ易くなります。これは昔から有名な話で、我が国では長野の諏訪地方や兵庫の有馬地方の一部などで限局的にみられます。

  さて、上記のJAMA論文以降、プロトンポンプインヒビターが骨折リスクを増大させるとする論文は諸外国でかなり多数にのぼりますので、この事実は皆さんに信じていただけることとして、以下は分かり易いように文献を日本語のニュースだけに絞って話を進めましょう。

  すなわち、FDAは、昨2010年5月に、胸やけの治療などに広く利用されているOTCのプロトンポンプ阻害薬(PPI)のラベルに骨折リスク増大との関連について警告する表示をするよう製造メーカーに指示すると発表し、消費者に対しては、”頻発性の胸やけの治療としての使用は14日間までに限り、いかなる場合も14日の使用が年3回を超えてはならない” と助言しています。

FDAがプロトンポンプ阻害薬による骨折リスクを警告
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20100603hj001hj

  さて、話は少し古く2009年9月のニュースですが、「強力な酸分泌抑制薬で骨折リスク増大」 (http://www.healthdayjapan.com/index.php?option=com_content&task=view&id=1913) を開いて、大腿骨骨幹部骨折の写真を見て下さい。

  次に、このPPI 服用による像を、「骨は強くなる弱くなる? ビスホスホネート製剤」( http://www.miyazaki-med.ac.jp/yakuzai/topics/DIM%20bispho.pdf )に原著から転載されている、ビスホスホネート薬を使用した女性に見られた同じ部位の骨折像と見比べて下さい。実にそっくりでしょう。

  皆さんも良くご存じのように、ビスホスホネートもPPI と同じく破骨細胞機能を見事に抑え込むわけですから、このように大腿骨骨幹部骨折像が酷似しているのは理の当然なのかもしれません。

  とすれば、前述のように、骨折を惹起するというビスホスホネート薬の副作用は、プロトンポンプ阻害薬による胃潰瘍の薬物療法で経験した骨折の知見からして、少なくとも数年前に当然の如く予期されていて然るべきだったと、小生には思えて仕方がないのです。

  すなわち、整形外科の専門医も、消化器内科のおける所見にも目を配っていたならば、言い換えれば、医師たる者として何時でもジェネラリストとして総合的に広く他診療科の情報をも収集し、評価し、活用する姿勢を持っていたならば、ビスホスホネート系医薬品の ”予知できない” 副作用を、実は早くから”予期できた” はずではなかったかと言いたいのです。

  このように考えるとき、、医師、看護師、各種の検査技師等々多くの医療職種の中で、このような総合的視野に立つ姿勢を一番とり易いのは誰でしょうか? 実は、大学在学中のの学生時代から、基礎から臨床にわたる科学と技術を幅広くしっかりと学んできた薬剤師ではないですか!!

  それが出来れば、必然的に薬剤師は医療チームの中で欠くことのできない枢要な位置を占めることになるでしょう。小生が優秀な薬剤師たる皆さんに是非とも頑張って欲しいと期待するするゆえんはここにあるのです。