遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.039
毛髪中コルチゾール濃度で
心臓発作を数ヶ月前から予測可能!

  前号では、高齢者のカルシウム・サプリメント摂取は、骨の強化に効果がないばかりか、心臓血管病リスクを増すかもしれないとの、英国医師会雑誌のBMJ 7月29日号付けオンライン版に掲載された報告が、我が国では殆ど報道されていないので特にご紹介しました。

  今回は、心臓発作関連の続きで、毛髪中のコルチゾールを分析すればストレスによる心臓発作を何カ月も前に予測できるかもしれないという新しい報告について、これも亦日本では殆ど採り上げられていないのでご紹介します。

  すなわち、仕事や生活、あるいはお金の悩みなどのストレスが心疾患のリスク増大と関係しているのは分かっているのですが、慢性ストレスを測る良い生物学的指標がなかったので、心臓発作の起こる危険性が高い人を何か月も前から割り出すすことは不可能でした。

  これまでストレスによる心臓発作を予測するために様々な方法が検討されてきましたが、例えば、ストレスホルモンであるコルチゾールの血液、尿、あるいは唾液中の濃度を測定したのでは、数時間前からせいぜい数日前までのストレス状態しか推できず、長期間のストレスレベルを追跡することはできません。

  それで、血液中の濃度が薄い物質についても、毛髪はそれらを濃縮して蓄積するという意味で実は排泄器官という側面を持っているので、以下の報告では、時々刻々に体内環境の状態とその変化をを記録している生物学的指標として、毛髪に着目したのです。(水俣病公害患者の毛髪中に、食べた水俣湾の魚介類から血中に入ったメチル水銀が蓄積されていた事実などから、我々日本人はこの事実をよく知っています)

  そこで、イスラエルのクファルサバ病院に心臓発作で入院した患者と、心疾患以外で入院した患者、それぞれ56人ずつの毛髪を採取し、カナダ・オンタリオ州の西オンタリオ大学との共同研究により分析したところ、心臓発作の入院患者の髪の方がコルチゾールが多いことが分かったのです。

  ヒトの毛髪は1カ月で約1cm伸びるので、6センチ分を分析すれば半年間のストレスレベルを追跡できるわけで、そのレベルが高ければ心筋梗塞発症の予測が可能になるというわけです。

  この研究は、例えば以下のように、欧米では文字通り枚挙にいとまがない位に紹介されています。

  しかしながら、「毛髪 コルチゾール 心臓発作 予測」などをキーワードに検索してみましたが、我が国では誠に残念なことに、まともな報道としては、

http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2754117/6156251
毛髪から心臓発作を予測、数か月前から可能に カナダ大研究

が只一つ出てくるだけで、これに続いている多数の記事は全部、この報道に対するblog上の個人的なレスポンスだけです。

  現状では実現性を抜きにしての単なるお話に過ぎませんが、職場や地域の健康診断で髪の毛を1本提出しておいたら、後の検査結果連絡の文書の中に、”・・・ 3か月前からコルチゾール値が急に上がっていますが、何か大きな悩みごとでも起こっていますか?心臓発作の危険性がありますので、くれぐれもお気を付け下さい。 ・・・” なんて書いてあったりしたらどうですか?

  大腸癌検診の便の潜血検査と基本は同じことですから、そんな夢を描かせてくれる論文だと思うのですが、皆さんはどう思われますか。

  しかし、染めたりブリーチした髪でもコルチゾールが検出できるかどうかをちゃんと調べておかないといけないですね。

  それよりもっと大事な点は、ちょっと言いにくいですが、禿げてしまった人はどうしたらいいんでしょうか?そんな人は、黙って恥毛を提出してもいいんですかねえ?

  日本のメディアも、少しはユウモアの心を持って、こんな報道をしてくれてもいいのではないかなあと考えてしまいました。