遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.035
糖尿病薬開発の最前線

  前号のメルマガでは、小生が横浜市立大学国際総合科学部で非常勤講師として担当している「創薬科学」の講義について触れました。早いものでこの授業も既に1学期の道半ばに差しかかりました。

  ここ3回にわたっては ”糖尿病と糖尿病薬” について話してきましたが、先ずオーソドックスにSU系などの経口糖尿病薬および各種のインスリン注射製剤開発の歴史を紹介した後、次いでトピックスとして大いに期待されるGLP-1アナログとDPP-IV阻害薬を解説しました。そして、最後には、今後を見据えて ”糖尿病薬開発の最前線” について話しました。

  皆さんが毎日応対される患者さんやその家族の中には糖尿病あるいはその予備軍の方が大勢いらっしゃることでしょうから、そうした方々とのコミュニケーションの中で話題のネタに使えるかもしれませんので、学生さんに配布したプリントの最後の部分をご参考までに以下に貼り付けます。


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  しかし、
DPP-IV阻害薬は、GLP-1以外のさまざまなホルモンの分解をも抑制してその活性を上昇させ、また一方では一部免疫系にも関与することが知られているので、これら薬物の長期投与の安全性については今後十分に注意を払う必要がある。

  国内外の製薬会社間でこれらの糖尿病治療薬の開発競争が如何に熾烈を極めているかについては、少し資料が古いにしても、次の総説

特集 次世代糖尿病治療剤 DPP-4阻害剤、SGLT阻害剤開発佳境
http://www.cimasj.co.jp/sumple/tokushu.pdf

は今でも読み物としてなかなかに興味をそそられる内容である。

(3)“吸入インスリン”を依然として諦めていない企業もある!

  前回の講義で、Pfizer社は吸入インスリンExuberaの販売を中止し、NovoNordisk社、およびEliLilly社も吸入インスリン製剤の開発を諦めたことを紹介し、小生は、自身の基礎研究の経験などから、この製剤に潜む肺粘膜上皮細胞に対する発癌作用のリスクを前から深く憂慮していたことを話した。

  しかし、MannKind社は、2008年3月10日には、インスリン分子を独自のTechnosphere粒子に吸着させ、これを独自の吸入器MedTone(携帯電話機程度の大きさ)によりエアロゾルとして肺の深部にまで到達させる独特なインスリン製剤TechnosphereInsulin の開発を続行すると発表した。そして、続いて4月10日には、Pfizer社の吸入インスリンExuberaの使用で発現した肺癌リスク上昇との関連性は、Technosphereについては認められないとの声明を発表した。

  そして、ほぼ1年前の2009年5月18日には、同社はこの製剤 Afrezzaの製造販売申請をアメリカFDAが受理したことを発表した。

MannKind says FDA accepts inhaled-insulin NDA
http://www.reuters.com/article/americasRegulatoryNews/idUSBNG49907520090518

  しかし、FDAは更に臨床的有用性を示す追加資料の提出を求め、なお承認には至っていない。

FDA rejects MannKind’s inhaled insulin product
http://www.pharmatimes.com/WorldNews/article.aspx?id=17560

(4) 経口インスリン製剤の開発も進んでいる!

  英国のDiabetology社は、安定化剤などを封入したカプセルでインスリンを包む新しい技術により、インスリンの胃液による消化を防ぎつつ、腸管からのインスリン吸収を高めた経口インスリン製剤Capsulinを開発して臨床試験を実施し、良好な結果が得られたことを2005年に学会で発表している。

http://www.diabetology.co.uk/oral.htm

  また、台湾の国立精華大学の研究グループは、キトサンとポリグルタミン酸からなるナノ粒子にインスリンを封入してラットに投与する実験で有望な研究結果が得られたことを、Biomacromolecule 誌(PDF版)に

http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/bm0607776
Preparation and characterization of nanoparticles shelled with chitosan for oral insulin delivery

と発表している(2007年)。

  最も新しいところでは、この2010年4月2日には、

Diabetes correction in pancreatectomized canine by orally absorbable insulin-deoxycholate complex
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/mp9002688

との、イヌを用いた動物実験から得られた有望な結果も報告されている。

一方、同じ経口投与でも、口腔内にインスリンを噴霧して粘膜から吸収させる方式の製剤

http://www.medicalnewstoday.com/medicalnews.php?newsid=21213
Oral-lyn (Generex Biotechnology社)

の開発も進んでいる。

  また、これまで何回となく紹介したインスリン製剤大手のノボ社もまた、経口インスリン製剤の開発に着手している。

Novo Starts First Insulin PillTest in Bidto Replace Injection
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601124&sid=a3qc_2S67XHc

(5) 経皮吸収インスリン製剤の開発も亦進んでいる!

  Phosphagenics社は、独自の “Transdermal Carrier Technology”による経皮吸収型インスリン製剤 TPM2/insulin の開発を進めている。

http://www.growthbusiness.co.uk/news/smallcap-spotlight/28340/aussie-group-claims-diabetes-boon.thtml
Aussie group claims diabetes boon   Aug24 2006

・・・ The company reports 'from onetopical application of TPM-02 Insulin applied as a gel, insulin was shown to penetrate the human skin safely and then be delivered into the blood stream over a sustained period of time'. ・・・

参考資料:
http://ueharazaidan.yoshida-p.net/houkokushu/Vol.23/pdf/001_report.pdf
新規経皮吸収システム(微小ミサイルカプセル)によるインスリンなど高分子薬のDDS 開発
高田 寛治 (京都薬大)
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  授業が終わると、出席を確認する意味もあって、学生さんに「受講感想カード」を毎回提出させますが、”先生のプリントには URL がちゃんと入っているので助かります” なんて書いてくれていたりします。

  皆さんも、日常扱っている現行医薬品について勉強するばかりでなく、その先にある近未来の新薬候補や新剤型についても是非想いを馳せて下さい。