遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.030
泥まみれの豚の方が無菌豚よりもずっと健康 !!

  世の中ではよく、『田舎の子供より都会の子供の方がアレルギーになりやすい』とか言います。それは、子供は清潔に育てられるよりも、結構汚れた環境に慣れた方が、免疫がよくできて健康になるからだというのです。

  また、『第二子、第三子より第一子の方がアレルギーになりやすい』とも言われます。これも、親が初めての子は何かと綺麗にして大事に育てるけれども、2番目、3番目の子ともなれば少し位汚れても放っておくので、やはり下の子の方が免疫がよくできて健康になるからというわけです。

  心情的には ”さもありなん!” と思いますが、科学者の一人としては、これを納得するに十分な実験的証拠を今まで見たことがありませんでした。

  ところが、ブタの飼育実験でこの点を世界で初めて明らかにしたと考えられる、20頁(図8、表6、文献61)に及ぶ長大な論文

Environmentally-acquired bacteria influence microbial diversity and natural innate immune responses at gut surfaces
BMC Biology 2009 Nov 20 ; 7(1) : 79

が、先日2009年11月20日付けで、英国のアバディーン大学の研究陣から発表されました。

・抄録 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19930542?dopt=Abstract&holding=npg
    http://www.biomedcentral.com/1741-7007/7/79/abstract

・全文 http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1741-7007-7-79.pdf
    http://www.biomedcentral.com/1741-7007/7/79

  すなわち、生後直ぐの54匹の子豚を、(1)屋外で自由飼育、(2)室内で飼育、および (3)個室に隔離し、抗生物質を毎日投与して飼育 の3群に分け、それぞれ5日目(新生仔期)、28日目(離乳期)、および 56日目(ほぼ成熟期)に屠殺して消化管と糞の細菌を検査し、”16S rRNA 遺伝子配列の解析による腸内フローラ中の優勢菌の分類” を含む各種の分析を実施したのです。

  その結果、屋外で自由に飼育されたブタでは、腸内細菌の9割が健康に良い良性のもの(乳酸菌など)で、これがずっと維持されるのに対して、屋内飼育のブタにあってはこれらの菌が遥かに少ないことが分かったのです。

  我々ヒトを含む動物の消化管内には多くの有用な微生物が生息していて、これらは腸管免疫を活性化して健康を維持保全するのに役立っているのですが、上記の実験結果は、動物が育つ幼少時の環境が腸内細菌叢と粘膜免疫機構の健全な生成に決定的に影響し、無菌状態化するのは却ってこれを大きく障害することを示しています。

  早速にNature News 誌 は、以下に示すように、これがそのままヒトに当てはまるかどうかはまだ分からないとしながらも、ヒトとブタの消化管内細菌叢は類似しており、ブタはヒトの良い実験モデルであるとして、この研究を紹介しています。

Dirty pigs are healthy pigs
Study finds link between outdoor living and immune health.
http://www.nature.com/news/2009/091127/full/news.2009.1111.html

  そうこうするうち、続いて12月8日には、ヒトについてもまさに同様であるとの結果が、アメリカのノースウエスタン大学を中心とする研究陣から、以下のように、英国科学アカデミーの主要な発行誌の一つである王立協会誌・生物科学部門に発表されました。

Early origins fo inflammation : microbial exposure in infancy predict lower levels of C-reactive protein in adulthood
Proc. R.. Soc. B ( Proceedings of the Royal Society : Biological Sciences )
doi : 10.1098/rspb.2009.1795 published on line
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/early/2009/12/08/rspb.2009.1795.full.pdf+html

  すなわち、西欧諸国における18世紀から19世紀にかけての悪かった衛生環境にも相当する現今のフィリッピン・セブ島において、1983年の3327人の妊婦について、出産した子供を2005年までずっと継続して追跡調査したのです。すなわち、都会あるいは田舎で育った子供たちをそれぞれ成人に達するまで、主に血清のCRP( C-reactive protein )を指標として、病気に対する抵抗性の発現状況を追跡し、最終的には1,461例の結果について解析したのです。

  それによって、研究陣は ”生後早い時期に衛生状態の悪い環境で微生物に暴露された子供の方が、成長後の病原体に対する抵抗性の発現がはるかに良い良いことが分かった” というのです。

  ノースウエスタン大学は、以下のように、ホームページ上にこれを詳しく解説しています。

Think Again About Keeping Little Ones So Squeaky Clean - Research suggests that everyday germs may prevent diseases in adulthood
http://www.northwestern.edu/newscenter/stories/2009/12/germs.html

  また、各国のメディアもこれを一斉に報じていますので、挙げると切りがありませんから、以下に1例だけを挙げておきます。

Everyday Germs in Childhood May Prevent Diseases in Adulthood
http://www.sciencedaily.com/releases/2009/12/091208192005.htm

  今や我々の周囲を見回すと、好むと好まざるとにかかわらず、もろもろの抗菌グッズが氾濫しているように、我が国では最近とみに生活環境を、必要以上にというよりむしろ無用にと言っていいくらいに、無菌化したがる傾向が強いようですが、この研究はその隠れた危険性を見事に示しているのではないでしょうか。