遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.028
そもそも我々の体の中に ”悪者” はいない!!

  小生は長らく生物系薬学の研究に携わってきましたが、その過程で生物学者として培ったのは ”およそ生体内に不要なもの、有害なものは存在しない!” という信念でした。その観点から、最新の研究例を二、三ご紹介します。

 (1) 先ずは、昨今もろもろの病気の原因と言われるようになった ”活性酸素” の問題です。

  即ち、最近のサプリメント・ブームの中で誤った理解が蔓延してしまった一つに”活性酸素”の問題があろうかと思います。つまり、活性酸素を除去する抗酸化作用が余りにも過大評価され、この作用がありさえすれば何でもかでも身体によいとする考えから、生体内で生成する活性酸素を盲目的に "悪者"とみなす考え方が市中にはびこっています。

  しかしこれは正しくないことが、2009年10月7日付けの Cell Metabolism誌に発表されました。

http://download.cell.com/cell-metabolism/pdf/PIIS1550413109002575.pdf?intermediate=true
Reactive Oxygen Species Enhance Insulin Sensitivity
Cell Metabolism 10, 260-272 (October 7, 2009)

   すなわち、オーストラリア・ビクトリア州にあるモナッシュ大学の分子生物学部門のTiganis教授の研究グループは、マウスを使った動物実験ですが、活性酸素の除去に携わる酵素のグルタチオンペルオキシダーゼの遺伝子が欠損するとインスリン感受性が亢進すること、つまり生理的な活性酸素はインスリンシグナル伝達を強化してインスリン感受性を改善すること、すなわち抗酸化剤で必要以上に生理的な活性酸素まで除去すると、結局インスリン抵抗性を上げて2型糖尿病になり易くしてしまうことを示したのです。

 (2) 次は、急激に患者数が増えている痛風の原因物質である尿酸の問題です。

  小生は高尿酸血症で一度痛風発作を起こしたことがあるので、尿酸排泄促進薬のベンズブロマロン(「ユリノーム」)を毎日飲んでいますが、こんなことから一般には、体内で産生される尿酸は痛風の原因物質として完全な ”悪者” とされています。

  しかし、それを疑わせる論文が最近二つ発表されました。

i ) Urate as a Predictor of the Rate of Clinical Decline in Parkinson Disease
Arch Neurol 66 (12) (Published online October 12, 2009)
http://archneur.ama-assn.org/cgi/reprint/2009.247v1

  尿酸が実はパーキンソン病を防いでいるのではないかということを示すこの論文について、旭川の薬局の薬剤師さんたちがいち早くブログ上で活発に論じ合ってていますのでご参照下さい。

痛風の原因物質(尿酸)がパーキンソン病の進行を遅らせる!?
http://chuopharm.dtiblog.com/blog-entry-364.html

ii )  Serum uric acid levels in patients with Parkinson's disease:Their relationship to treatment and disease duration
Clinical Nuerology and Neurosurgery 111 (9) 724-728 (Nov 2009)
http://www.clineu-journal.com/article/S0303-8467(09)00151-6/abstract

  ここでは、血清や脳脊髄液の尿酸濃度が高いパーキンソン病患者は臨床症状が悪化しにくい、つまり脳の尿酸はパーキンソン病神経変性を防ぐ作用を有するのかもしれないことが示されているのです。

  こうした生き物が本来的に持っている生体反応の合目的性という生物学の原理を理解し、そこから発する知識の獲得に努めることは、患者さんとの間のコミュニケーションの背景としては大事なことであり、これらの素材を折に触れて会話の中にちりばめていけるのが、患者さんをサポートする有能な薬剤師の資質なのではないでしょうか。