遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.027
温故知新 ― 重曹が慢性腎不全の進行を遅らせる!!

  慢性腎疾患(Chronic kidney disease :CKD)は、いわば特効薬がないという意味で、最も手ごわい疾患の代表の一つでしょう。

  そのCKDの症状が悪化し、血液透析への移行などESRD [ end-stage renal disease ] へ進行する速度が、炭酸水素ナトリウム(重曹、重炭酸ソーダ)を毎日服用するという、安価でしかも容易な方法で極めて顕著に低下し、同時に患者の栄養指標も改善されることが、2009年7月16日に英国ロンドンの医師らによってアメリカ腎臓病学会誌のオンライン版に発表されました。

  王立ロンドン病院で行われたこの試験的臨床研究では、既に進行CKDの状態にあって代謝性アシドーシス(metabolicacidosis)を呈している134名の患者を無作為に2群に分け、試験群では、通常のケアに加えて、重曹600mg錠を1日3回服用させ、2年間にわたり対照群と差異を追跡しました。

  その結果、CKD患者がESRDに移行したのは、通常ケアの対照群では45%に上ったのに対し、重曹服用を続けた試験群では僅か9%だったのです。

  更に、血液検査からも、血漿アルブミン値や血清カリウム値などの指標が重曹服用患者の方が健康状態も有意に改善されていることが分かったのです。

  何故これがアメリカの医学誌に投稿されたのかは分かりませんが、この臨床研究は英国で行われたものですから、以下に様に Times が詳しく報じ、

Daily dose of baking soda ‘can keepkidney patients off dialysis’TheTimes July 17, 2009
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/article6716929.ece

NHS(National Health Service)当局も更に詳細にこの研究の意味するところを解説しています。

Baking soda forkidney patients NHS choices July 17, 2009
http://www.nhs.uk/news/2009/07July/Pages/Bakingsodaforkidneypatients.aspx

  また、アメリカ腎臓病学会も、学会はあくまで情報提供をしているのであって、特に医学的なアドバイスをしているわけではないがと断りながら、以下のPublic releaseで研究内容を平易に説明しています。

Baking soda: For cooking,cleaning and kidney health?
Sodiumbicarbonate appears to slow progression of chronic kidney disease
(American Society of Nephrology July 16, 2009)
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2009-07/ason-bsf070909.php

   この臨床研究は、無作為化(ranndomize)されてはいるものの盲検(blind test)でもないあくまで pilot study に過ぎない段階ですから、著者も認めているように、この研究結果は今後試験規模を拡大して二重盲検法で再確認することが必要です。

それにしても、腎機能不全の病因を解明し、それを除く原因療法を追求する研究を進展させなければならないことは当然としても、それもなかなかままならぬ現在では、こうした病状の進展を確実に阻止する療法の研究もまた絶対に必要です。

  そこで、このように cost-effectiveness の良い療法を地道に研究しているところは、さすが英国だなと思いました。

  また、慢性腎不全の薬物療法には降圧薬、利尿薬から漢方薬に至るまで多々ありますが、”アシドーシスによる腎機能の低下を防ぐためにアルカリ化薬として重炭酸ナトリウムを1日1〜3g服用する” ということは、実は我が国でも古くから言われてきたことですから、この種の臨床研究は我が国でこそ行われていて不思議はなかったのだがと、誠に残念な想いがあることも否めません。