遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.026
”ビスホ”錠を無重力骨粗鬆症防止に服んだ若田光一さん

  約4ヶ月半の宇宙長期滞在を終え、ほぼ1カ月前の7月31日、無事に地球へ帰還した若田光一さんは、以来約45日間のリハビリ期間中に、微小重力環境に長期間曝されたことで身体に起こったもろもろの事象を詳細に調べることになっていますので、今でも文字通り体を張った実験中ということになります。

これからリハビリ45日間…若田さん、なお激務
http://www.asahi.com/science/update/0801/TKY200908010259.html

  その実験には、若田さんがフライトの前にNASAから受けたインタビュー

Preflight Interview : Koichi Wakata,Mission Specialist
http://www.nasa.gov/mission_pages/shuttle/shuttlemissions/sts119/interview_wakata.html

の中で答え、またご自身のブログの中で自ら

無重力での骨の密度低下を防ぐための研究
http://blogs.yahoo.co.jp/koichiwakata_blog/19309665.html

・・・ 地上での骨粗鬆症に対する治療薬として使われているビスフォスフォネートと呼ばれる薬がありますが、私は今回のISS長期滞在で、ビスフォスフォネート剤を宇宙で定期的に服用して、飛行前後での骨密度の変化を調査し、宇宙での骨密度低下を予防するための日米共同の研究に被験者として参加しています。 ・・・

と書いておられるるように、ビスホスホネート薬が無重力による骨粗鬆症の発症を予防する効果があるかどうかの確認という目的があります。

  この研究プロジェクトの責任者は、小生がかって骨代謝研究の世界でご一緒していた俊秀である徳島大学医学部第1内科教授の松本俊夫先生です。

  なお、こうした実験は極めて重要な科学研究ですから、以下のように経済界の新聞でも、早くからかあり詳しく報道しています

【日々是宇宙 ISS長期滞在】(3)健康 人類進化の実験場
http://sankei.jp.msn.com/science/science/090218/scn0902182215002-n1.htm

が、一般紙にあってはもっと市民に科学啓発記事を発信して欲しいものです。

  ちなみにアメリカでは、例えば

Human Guinea Pig to Blast Off With Space Shuttle
http://news.nationalgeographic.com/news/2009/03/090310-shuttle-japan-wakata-2.html

のような形で、いろいろと報道されています。

  この点に関連しては、小生がこの歳(何と傘寿!)でなお非常勤講師を勤める横浜市立大学では、7月末に実施した国際総合科学部前期「創薬科学」の定期試験に当たり、

第1問  以下の読売新聞「宇宙ブログ」の記事にある、宇宙飛行士・若田光一さんの文字通り”体をはった”実験に使われた、以下の問題文では下線を施した類の骨粗鬆症薬について概説し、この種の医薬品に対する感想、意見など思うところを自由に述べなさい。

http://blog.yomiuri.co.jp/space/2009/03/post-2d6d.html
危険、不安と一緒に「夢」背負う宇宙飛行士   2009年3月10日

無重力の宇宙空間では、体重を支える必要がないので、骨や筋肉が弱くなります。 ・・・・・・・・   ・・・・・・・  帰還後、宇宙飛行士が骨折をしてしまったケースもあるそうです。 骨の減り方は、骨粗鬆症のお年寄りの10倍とも言われており、長期滞在では、これは大きな課題になります。

今回の3カ月間の滞在中、新たな対策として、若田光一さんは「骨粗鬆症治療薬」を週に1回服用し、その効果を検証するそうです。 そして、若田さんによって収集された医学データは、地球で骨粗鬆症に悩む人たちを救うための研究にも役立てられます。

という出題をしました。

  「服用」という表現からして用いられた剤型は経口剤、それでいて「週1回」の服用で有効性が期待できる骨粗鬆症薬といったら、現在のところではビスホスホネート薬しかないだろうと、学生は一応はよく考えてから解答しなければならない問題なので、学生間では単に知識を問うだけの試験ではないという意味で評判は結構良かったようです。

  解答は、この種のビスホ剤の研究展開に諸手を挙げて大賛成の意見から、典型的生体異物の -C-P- 化合物を医薬品応用することへの懐疑的意見まで、実に多種多様でして、学生さんがそれぞれに考えてくれたのには満足しました。

  でも、中には、「週1回」の文字に先に目が行って、ここから ”間欠投与” が薬物適用の必要条件であることで頭が一杯になってしまったために、副甲状腺ホルモン PTH (parathyroid hormon)の活性C末端である PTH(1―34) 製剤(「テリパラチド」teriparatide)を考えてしまった学生も何人かいました。

  でも、「テリパラチド」には、確かに錠剤に準ずる位に適用が容易な経鼻スプレーの剤型も既にあることですから、よくよく考えた上で結局思い違いをしてしまった解答として、一応はそれなりの点数をあげることにしました。

  なお、以上のように宇宙飛行士の若田光一さんがビスホ剤を飲んでいた件については、テレビの著名な情報バラエティ番組で、

若田光一「宇宙で飲んでた薬」 テリー「実はボクも同じのを」
http://www.j-cast.com/tv/2009/08/03046594.html

と、テリー伊藤氏が 「暮れに腰を痛め ・・・・・ 以来週に1回、土曜日に飲んでいます。のんだあと、寝ちゃいけないんで立っているんです」 と発言しています。

  臨床所見を知らずに発言するのは医薬関係者として不謹慎の謗りを免れませんが、でも小生は ”腰椎骨折にこの投薬とは如何なものか?” と首をかしげざるを得ませんねえ??