遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.016
薬局薬剤師の服薬支援
一寸ばかり悲しい(?)英国と日本の現実

  神奈川県相模原市に住む小生は、かっては薬系大学教員の立場から、県薬務課や県薬剤師会の依頼を受け、各種委員会の委員長としてなど、懸命に医薬分業の旗振り役を務め、いろいろな方策で県民の皆さんにその意義を力説してきました。

  更に停年後の現在は、当「医療教育研究所」の理事長として、薬剤師生涯研修 e-ラーニングプログラムを提供する中でも、医薬分業の推進のために大いに力を注いでいるつもりです。

  しかし、患者の一人として街の薬局で薬剤師さんに接するとき、、医薬分業の根幹をなす患者さんへの服薬支援の実態が誠にお寒い限りであることに心を痛めることが多々あります。それで、外国では一体どんな状態なのかについても強い関心を持ってきました。

  そんなことで、ここでは先ずイギリスについて、その上で更に我が国について、最近の調査結果をご紹介しましょう。

 (1) 英国の薬局の実情

  イギリスには ”Which?” (http://www.which.co.uk/ )という消費者団体があります。

  この Which? は、この5月に、国内各地の101の個人薬局やチェーン薬局で、13名の覆面調査員が以下の3つのシナリオ(調査目的)

  • 昨晩避妊せずにセックスしてしまったから、緊急避妊薬を売って欲しい。
    (プライバシーへの配慮や適正な情報の提供)
  • 偏頭痛の薬(英国ではスマトリプタンがOTC薬)が欲しい。
    (MHRAによる販売指針にしたがった販売の励行)
  • 最近マレーシアに旅行したら、ここ2週間下痢が続いるのだが?
    (適切なアドバイスと必要に応じた受診勧奨の実施)
に従ってOTCを試買しました。そして、購入時の薬局スタッフの対応について調査結果をまとめ、9月25日に発表しました。

http://www.which.co.uk/news/2008/09/pharmacies-get-test-of-own-medicine-157330.jsp
Pharmacies get test of own medicine Pharmacy staff giving poor advice, Which? reveals

  その結果は、不満足(unsatisfactory)な応対が、個人経営の薬局では48%、Boots 他のチェーン薬局でも 20~38% に及び、反対に良い(good)応対は、個人経営薬局では17%にとどまり、チェーン薬局ではいい方のBootsで33%、悪い方のLloydに至っては僅か15%にしか過ぎませんでした。

   英国王立薬剤師会機関誌のPJ(Pharmaceutical Journal)は、直ぐにこの調査結果をとりあげています。

Advice from pharmacy staff criticised by Which?
(The Pharmaceutical Journal 2008 ; 281 : 349)
http://www.pjonline.com/news/advice_from_pharmacy_staff_criticised_by_which

Pharmacy bodies defend staff but recognise room for improvement
(The Pharmaceutical Journal 2008 ; 281: 349 )
http://www.pjonline.com/news/pharmacy_bodies_defend_staff_but_recognise_room_for_improvement

  もちろんメディアも、以下の例示に見られるように、この調査結果を一斉に刺激的な表題で報道しています。

Pharmacy advice 'frequently poor'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7633033.stm

Pharmacists give wrong advice to almost half of customers, watchdog claims
http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/politics/health/3072907/Pharmacists-give-wrong-advice-to-almost-half-of-customers-watchdog-claims.html

Pharmacy staff 'give poor advice'
http://itn.co.uk/news/af3899b7fa28c6b09454e54afd554818.html

A third of pharmacies give 'unsuitable and potentially unsafe' advice, survey finds
http://www.dailymail.co.uk/health/article-1061410/A-pharmacies-unsuitable-potentially-unsafe-advice-survey-finds.html

  こうした調査に基づき、Which? は、英国王立薬剤師会及び北アイルランド薬剤師会に対し、ちんとした対応を求めると同時に、各店舗の薬剤師以外のスタッフ(英国では”テクニシャン”ですが、日本ならこれからの「登録販売者」がこれに当たるでしょうか)が消費者にきちんとアドバイスできるよう、今後しっかりとトレーニングを積むことを求めています。

 (2) 日本の薬局の実情

   上記の英国の調査に完全に対応するわけではありませんが、我が国の薬局について同様な観点から調査、分析した論文が、日本薬学会機関誌の一つである「薬学雑誌」の9月号に載っています。昭和大学薬学部臨床薬学教室山元俊憲教授の研究陣がまとめたものです。

http://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/128/9/128_1301/_article
Descriptive Study on the Circumstances concerning Confirmation of Contraindications and Careful Administration upon Purchasing Over-the-Counter Cold Medication and Manifestation of After-use Urinary Disorders

YAKUGAKU ZASSHI Vol. 128  No. 9 1301-1309 (2008)

  これは、首都圏の50~69歳の男女計500人がOTC風邪薬を薬局で購入した際に薬剤師がどのような対応をしたかを調査したもので、特に男性については、抗ヒスタミン薬による前立腺肥大症状増悪の副作用をどの程度認識しているかについても調べています。(ちなみに、78歳の小生にとってこの問題は重大なのですが、実はOTC風邪薬を求める際に薬局でこの点を注意されたことはありません)

  調査結果によると、このように、求めようとする薬の適応以外に他の疾病はないかなどと、使用上の注意や禁忌についての確認を受けた患者さんは僅か1~2割に留まったとのことです。

  それででしょうか、具体的には、風邪薬が前立腺肥大を悪化させることがあるのを男性客の75.6%は全く知らず、実際にOTC風邪薬を飲んだ後に排尿困難の症状を経験した患者が6%程いたとうのですから、どうも日本の薬局店頭における薬剤師の服薬支援も、現状はかなり深刻な事態ではないでしょうか。

  こうした状況の改善には、日本中で現場の薬剤師さん一人一人が日々意識して前向きに仕事をして行く以外に方法はないのですから、皆さん大いに頑張って下さい。