遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.014
医薬品副作用患者自発報告制度の世界における現況

  小生、つとに、医薬品副作用による健康被害にについては、現在のように製薬企業と医療従事者に医薬行政当局への報告を義務付けるだけでなく、同時に、消費者も直接に自発報告できる制度を採るべきであると主張してきました。

  そこで、「調剤と情報」誌(じほう)に、平成17年10月(Vol.11,No.11)から平成19年10月(Vol.13,No.11)まで9回にわたり不定期連載したシリーズ ”Essay 「医薬品副作用被害の歴史」” において、その最終回には

”被害防止に患者からの直接報告を”
調剤と情報 13 (11) 1384―1386 (2007)

と題して、骨粗鬆症薬としてのビスホスホネートによる顎骨壊死という、今でこそよく知られているものの、当時はまだあまり重視されていなかった重篤な副作用の我が国での実経験例から説き起こし、英国の医薬品庁MHRAによるYellow Card Scheme、及び米国の食品医薬品局FDAのMedWatchSystemを、簡単にではありますが、医薬品副作用の患者直接報告システムの例として紹介しました。

  このうち、2007年12月31日の時点での米国FDAのデータに関しては、

http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly6/15080724.pdf
医薬品安全性情報 Vol.6 No.15 (2008/07/24)
2007 年12 月31 日時点でのFDA 有害事象報告システム(AERS)の集計

の中で、最近の4,5年は消費者(consumer)からの報告数が急増し、長らく漸増してきた医療従事者からの報告数に今や迫っていることを示すことが図示(図 3参照)され、国立医薬品食品衛生研究所・安全情報部により紹介されています。

  また、更に最近では、小生が委員長を務める日本薬学図書館協議会の日本薬学会年会シンポジウム企画運営委員会が、今年2008年3月末に日本薬学会第128年会で開催したシンポジウム 『患者中心の医療―医療者・患者間のバリア・フリーを目指して』 において、全く同じ視点から山本美智子(医薬品医療機器総合機構安全部)氏が行った報告が、

”欧米における患者と医薬品情報―患者からの副作用報告―”
山本美智子、中山健夫(京都大学大学院医学系研究科)
薬学図書館 53(3) 190―202 (2008)

として、つい先日7月31日に刊行されました。

  この中では、上記の英国や米国における現状に加えて、更にオランダのLareb の現況が詳しく紹介されています。

  Lareb は Medicines Evaluation Board (MEB)の基金で1991年に設立された国の独立機関で、国内での医療従事者および患者からの副作用自発報告の推進、副作用の評価、副作用データベースの管理などの業務を行っています。

  患者からの医薬品の副作用に関する自発報告は2003年から開始され、現在は 下記

http://www.lareb.nl/meldformulier/patient/melden.asp

のフォームによりWeb のみで受け付けていますが、これは有害事象のデータがWeb報告の方式なら直接にデータベースに入るので、エクストラのデータ処理の仕事が必要ないからです。

  報告者の半数は、報告した理由として、医療従事者が彼らの懸念に対して耳を傾けてくれなかったからとしています。そのためでしょうか、患者報告は医療従事者のそれに比べてより重篤な副作用のケースが多く、そうした報告の質は医療従事者からのものに比べて決して遜色ないと言われています。

  患者報告の割合は、全報告数(製薬企業、医師、薬剤師、患者)の中で、11.7%(2004年)から18.2%(2005年)、さらに18.9%(2006年)へと年々増加しています。ちなみに、2006年の全報告数は6,334件で、製薬企業からの報告は全体の約27%でしたから、患者直接報告の重要性がわかります。

  ひるがえってこの辺に関連する我が国の最近の動きをみますと、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方に関する検討委員会」の討議に発して、兎に角 ”医薬品の安全管理体制に関わる人員の300人増加が必要” という厚労省関係の係官人員増の概算要求に論議が集中してしまい、根本的な議論が行われないままなので、

”薬害は、厚労省の「打ち出の小槌」か?”
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/mric/200807/507276.html

  と揶揄されてしまっている始末です。

  ここで本当に必要なのは何でしょうか。単に係官の人数を増やすだけでは解決しない、上述したように今や世界の趨勢になっていると言って差し支えない ”患者重視” へのパラダイムの質的転換なのではないでしょうか。

  また更に、大学にあっては、薬剤師教育も6年制という高次のものになったのなら、薬事関係法規の授業にあっては、国試合格のための単なる現行法の解説に留まらず、こうした比較法学的な comparative な視点から日本のあるべき姿を考える教育も必要なのではないでしょうか。