遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.007
糖尿病管理
― ハイリスク群では血糖はマイルドに下げる方が良い?!

  日本で糖尿病による死亡者数は現在年間1万人を上回り、糖尿病患者総数は1,000万人を超える言われる現在、この状態を改善するために、糖尿病が強く疑われる人と糖尿病に可能性を否定できない人を合わせて、今や日本全国で千数百万人の人々に対して糖尿病検査を実施することがが必要であると言われています。

  糖尿病検査の指標といえば誰でも血糖値を思い浮かべますが、これは検査の時点に限っての糖代謝の状態を示すだけです。ところが、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シーと発音し、またグリコヘモグロビンとも呼ばれます)は、過去1、2ヶ月の平均血糖値を反映する情報で、血糖値のように一時的な生理条件によって左右されません。それ故、この測定によって見逃され易い状態の糖尿病の診断も可能になるので、HbA1c は糖尿病患者の発見にはもちろんですが、糖尿病患者のコントロール状態を把握するのにも絶好なマーカーで、健康人としての基準値は4.3~5.8%とされています。

  ところが、米国で2001年以来継続されている糖尿病に関する大規模臨床試験”ACCORD”(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)

  NIHが2型糖尿病患者対象の大規模臨床試験「ACCORD」をスタート、3戦略の心血管疾患合併予防効果を検討

の途中で、米国の国立衛生研究所NIH(National Institute of Health)は、ついこの間2008年2月6日になって、以下の通り、この大規模臨床試験の中で、”HbA1c の厳格なコントロール”の部分だけは中断すると発表したのです。

  このACCORD試験は、心血管疾患の既往があるか或いは心血管疾患の発症リスクが高い40~82歳(平均62歳)の米国とカナダの2型糖尿病患者約1万人を対象に、2009年までの予定で実施されている二重盲検ランダム化比較試験ですが、今回中断することにしたのは、この中の「厳格な血糖コントロール」群と「通常の血糖コントロール」群を比較する試験の部分です。

  「厳格なコントロール」群ではHbA1c値を6.0%未満に保つのに対し、「通常のコントロール」群では7.0~7.9%の範囲でコントロールするというものです。

  当然、「血糖値を降下させればさせるほど、循環器疾患の発症リスクは抑制できる」という仮説から、前者の群に良好な結果を期待したのですが、データの中間解析からは、「厳格なコントロール」群では257人の死亡があったのに対し、「通常のコントロール」群では203人の死亡に留まり、厳格なコントロールをした群の方が死亡率が高いという意に反した結果が得られたのです。

  この数字は、1年間で1000人当たり死亡者3人の増加、死亡率20%の上昇に相当するとして、NIHの中の米国心臓肺血液研究所(NHLBI :NationalHeart Lung and Blood Institute)は、患者の安全性の問題を考慮して、このHbA1c 試験の部分だけは中断し、すべての患者についてHbA1c値を「通常のコントロール」に変更する措置をとったのです。

  心臓血管病リスクがある高齢の2型糖尿病患者に対しては、HbA1c値を厳格にコントロールするのは却って良くないかもしれないという今回のデータ発表を受けて、専門家の間にも大きな動揺が広がっていますが、米国糖尿病協会(American Diabetes Association)は以下のステートメントを発表し、患者は、動揺することなく、医師が決めた治療計画を守るよう呼びかけています。

  メディアも、以下に例示するように、このことを一斉に大きく報道しています。

ところが、上記のアメリカでの措置から1週間しか経っていないこの2月14日には、オーストラリアの National Health and Medical Research Council の資金によって、上記ACCORD試験と同様なデザインで、やはり2001年から実施されているADVANCE(Action in Diabetes and Vascular disease:Preterax and Diamicron MR Controlled Evaluation)試験のデータの途中解析からは、米国NIHが認めたような ”血糖降下強化治療”と死亡リスクの上昇との間の関連” は認められなかったと発表されたのです。

  もちろん、早速にメディアも以下に例示するように続々と報道しています。

  以上のように、臨床試験も大規模で実施されれば結果は一定の真実に収斂するのかと思うと、必ずしもそうとは言い切れないようですので、なかなかに難しい問題ですが、この件は我が国の今後の糖尿病治療指針にも影響を及ぼす可能性がありますので、この後の動静については慎重に見守る必要がありますね。