遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.006
ビスホスホネート製剤の副作用もろもろ

  今や我が国では骨粗鬆症薬として非常に繁用されるようになったビスホスホネート製剤に関して、これまでに小生は再三再四にわたり、

「これらビスホスホネートは -P―C―P- という高等動物体内には全く存在しない構造を基本骨格とする人工的な化合物である。つまり、ビスホスホネートは、現存生物が生体反応で繁用するジホスフェート-P―O―P- に類似してはいるものの、ヒトの体内では合成も分解も出来ない -C―P- という原子間合を持つ点で、non-metabolizableな典型的生体異物である。

したがって、我々がこのような物質を摂取したときには、異物処理に肝要な肝臓や腎臓に対しては勿論のこと、大なり小なりこれら物質に曝される体内のすべての細胞に多大な負担を強いることになる。

それ故、ビスホスホネート化合物は、強力な破骨細胞活性制御による確実な骨  吸収反応抑制作用により、勝れた骨粗鬆症薬たり得るとしても、その利用に当たっては、慎重な上にも慎重な副作用に対する十二分の注意が必要である。」

ことを強く主張してきました。

  この考え方については、小生が「調剤と情報」(じほう)誌に9回にわたり不定期連載してきた“医薬品副作用被害の歴史”シリーズの最終回

被害防止に患者からの直接報告を!
調剤と情報 13(11) 1384―1386 (2007)

に詳しく述べていますので、お近くに御座いましたら参照して下さい。

  この点に関連してアメリカFDAは、既に2004年に、ビスホスホネート製剤が機序不明の顎骨壊死を惹き起こすことに警告を発し、

その後も以下のように、オーストラリアと英国でも次々と同様な警告が発せられました。

  更に最近では、米国FDAが昨年10月に、同じくビスホスホネート製剤が重篤な心房細動を惹起するリスクを増大させることを警告しました。

  このたび2008年1月7日、米国FDAは更に、ビスホスネート製剤を服用している患者には、日常生活に支障をきたす程激しい ”musculoskeletal pain”「筋骨格痛」(筋肉痛、関節痛、骨痛)が起きる可能性があるとして、下記のように注意を呼びかけました。

  日本の添付文書でも、アレンドロン酸、リセドロン酸製剤にはこれらの副作用の記載がありますが、

”骨粗鬆症の患者さんにあっては、一般に痛みはよく訴えられる症状でもあるので、それらとは異なる重大な副作用としてのこれらの症状がついつい見逃されている可能性がある”

として、通常の痛みとは異なる激しい「筋骨格痛」の徴候に注意するよう、今回のFDAの注意喚起となったものです。

  FDAは、この筋骨格痛が使用開始後にいつ起きるか(翌日か、1週間後か、それとも1ヵ月後か)や、また発生頻度も分からないとしながらも、ビスホスホネート製剤の中止で症状が軽快したケースがあるので、医療専門職に対して、ビスホスホネート製剤の使用中の患者がこういった症状を訴えないかどうかを十分慎重にモニターするよう呼びかけたものです。

  なお、こうした筋骨格痛は、静脈注射投与の製剤や、あるいは週1回、月1回内服の製剤使用開始後に起こる可能性が高いとして、ビスホスホネート製剤の投与に当たっては、低用量を1日1回投与のタイプの製剤で開始することを呼びかける論文が以下のように発表されています。

Common musculoskeletal adverse effects of oral treatment with once weekly alendronate and risedronate in patients with osteoporosis and ways for their prevention
J Musculoskelet Neuronal Interact 2007; 7(2):144-148
http://www.ismni.org/jmni/pdf/28/06BOCK.pdf

  これらの問題については、以下に例示するように、メディアも多数報道しています。

  薬剤師は、ビスホスホネート製剤の処方を持参された患者さんに対して、対話の中でこうした点に関する情報を注意深く収集して患者さんに的確なアドバイスをし、更に必要あれば主治医に情報をフィードバックすることによって、患者さんに最も適切な医療が施されるように努めなければなりません。

  普通の metabolizable な薬物ならば、副作用が起こったとしても、医薬品の適用を中止すれば直ぐに薬物の作用は消失するので、その症状はじきになくなることになります。これは薬物服用による肝機能障害の場合などで、薬剤師の皆さんはよく経験していることでしょう。

  ところが、ビスホスホネートは、例えば前述の額骨壊死の場合で言えば、一旦は骨のヒドロキシアパタイト結晶に強く吸着されることによって体内に蓄積した薬物が、生理的な骨吸収反応にかかわる破骨細胞に少しずつ貪食されて溶解し、それが血液循環に乗って腎臓から徐々に体外に排出されて体内から消失するまでに、実は多大な時間を要するのです。
これこそが、一週間に一回、更には毎月一回の服薬で宜しいという新しい製剤を生んだのです。最近アメリカでは、1年に1回点滴静脈注射すればよいという製剤が承認されました。

  幸い副作用が起こらなければいいのですが、一旦副作用が起こってしまった患者さんは、服用を中止したからといって直ちに副作用の症状が消えるわけはなく、一旦吸着されたビスホスホネートが自身の骨から溶け出して無くなるまで、長い間その副作用症状に苦しみ続けなければならないことになるのですから、不幸にもそんなことにならないよう、薬剤師は患者さんとの対話の中にその徴候を出来る限り早く見出して処方医に連絡しなければなりませんね。