遠藤浩良の雑記帳 当法人理事長遠藤浩良が個人的意見として発信する『遠藤浩良の薬学雑記帳』をお届けします。 薬学、薬業、医療に関する資料、情報、意見など盛りだくさんな内容です。
No.002
世界的に進む経口糖尿病薬メトホルミンの再評価

 小生は自然科学ではホルモンが専門で、現役時代は「内分泌薬学」を1950年代から長年にわたり講義して来ましたから、その中で糖尿病薬の変遷にについてはずっと付き合ってきたことになります。

 ところで、経口糖尿病薬メトホルミン塩酸塩(メルビン錠、グリコラン錠、メデット錠、その他ジェネリック医薬品)が英国で1957年に発売されてから既に半世紀が経過しました(日本では1961年2月発売)。

 1970年代には、同じビグアナイド系経口糖尿病薬のフェンホルミンを中心に乳酸アシドーシスの有害作用に起因した死亡が報告され、フェンホルミンは1977年には販売が中止され、メトホルミンについても世界的に使用が控えられてきました。ですから、小生はビグアナイド系経口糖尿病薬にはあまり好意的な講義をしてきませんでした。

 しかし、このメトホルミンについては、1998年のUKPDS試験など、これを再評価する臨床試験結果が次々と発表されるにいたり、最近では糖尿病治療の世界で完全に復権を果たした状況になりました。日本でも今や糖尿病専門医は肥満患者に対してはこれを第一選択薬として用いているようです。

 このような動静の中で、世界で最も著名な医学雑誌の一つである英国のBMJは、この9月8日号において、心不全を持つ糖尿病患者での糖尿病薬のメタ解析論文

Benefits and harms of antidiabetic agents in patients with diabetes and heart failure : systematic review
British Medical Journal 335 497 (Sept 8,2007)
http://www.bmj.com/cgi/content/full/335/7618/497

を掲載し、”メトホルミンはこれらの患者に害を与えない唯一の薬である”と結論しています(無料で全文が読めます)。

 同じ号には、「メトホルミン、心不全、乳酸アシドーシス:メトホルミンは絶対的禁忌か?」と題する記事

Metformin, heart failure, and lactic acidosis :is metformin absolutely contraindicated ?
BMJ 335 508-512 (Sept 8,2007)
http://www.bmj.com/cgi/content/extract/335/7618/508

も掲載され、”医師は、禁忌とされている症例にメトホルミンを用いているが、乳酸アシドーシスのリスクは増加していない” ことなどが書かれています。

 更に、米国の内科学雑誌のオンライン先行版には

Systematic Review: Comparative Effectiveness and Safety of Oral Medications for Type 2 Diabetes Mellitus
Annals of internal medicine 147(6) (18 Sept,2007)
http://www.annals.org/cgi/content/full/0000605-200709180-00178v1

が発表され、”新しくてずっと高価な2型糖尿病の経口治療薬に比べて、はるかに古い経口糖尿病薬は、血糖コントロールの効果と副作用の面で、新薬と同等か、むしろ勝り”、メトホルミンは、乳酸アシドーシスのリスクは他の薬と変わらず、患者の体重を増加させることのない唯一の薬であるなど、経口糖尿病薬の中では最良のプロフィルをもつ薬剤であると述べられています。

 メトホルミンは何せ古い薬で薬価が非常に安いので、費用対効果の点から医療経済的に医療機関にとって、また治療費の自己負担の上でも患者にとって、共にメリットは大きいですから、”温故知新”でメトホルミンが糖尿病治療においてもっとポピュラーにならなければいけないですね。

 このような状況下で関係企業も一所懸命なのでしょう、下記の資料もご参考になるかと思います。

見直されたビグアナイド薬メトホルミン―新しい糖尿病治療薬が登場する中にあってなぜメトホルミンが必要なのか
http://www.carenet.com/diabetes/metforminzadankai/index.aspx