IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
スタチンと代替医療

はじめに

 2011年の日本補完代替医療学会学術集会が11月5日,6日の両日,金沢市の石川県文教会館において金沢大学大学院医学研究科の鈴木信孝特任教授を大会長として開催された。今年は,3.11東日本大震災の影響で開催が危ぶまれたが,本学会の理事長でもある鈴木教授の並々ならぬ決意で,時間的には例年より短縮されたものの開催にこぎつけることができた。ここでは,本集会のデータセミナーのセッションで発表された2件のスタチンに関係する話題を紹介したい。

スタチンとCoQ10

 一つ目は,金沢大学大学院医学研究科の馬渕宏教授による“スタチン服用患者における還元型CoQ10の必要性”である。スタチン系薬剤は,現在世界中で使用されているコレステロール低下剤で,「スタチンは高コレステロール血症に対するぺニシリンである」と評価されています。この薬剤がペニシリンと評価される理由には2つあり,感染症に対するペニシリンのような画期的な薬剤であるという意味と,ペニシリンが青カビから産生されるように,スタチンもカビから産生されることによる。スタチンは,コレステロール生合成経路の律速段階であるヒドロキシメチルグルタリルCoA (HMG-CoA) がメバロン酸に還元される反応を触媒するHMG-CoA還元酵素を阻害する。スタチンの服用は,悪玉コレステロールを30%低下させ,心臓疾患も30%以上減少させることがわかっている。この薬剤の安全性は非常に高いが,まれに筋肉痛,しびれ,脱力など骨格筋障害が併発することや,肝機能障害,糖尿病の悪化などが認められる。実はコレステロールとコエンザイムQ10(CoQ10)は,同じ合成経路で作られているため(図1参照),コレステロール合成をスタチンで阻害すると同時にCoQ10の合成も阻害される。要するにスタチン服用患者におけるCoQ10の低下がスタチンの副作用を引き起こしていることが懸念される。このCOQ10の低下とスタチンによる副作用発現との因果関係は明らかではないが,馬渕教授は,スタチン服用患者に還元型CoQ10の補充投与を推奨している。臨床データに基づいてスタチンと還元型CoQ10(50~100 mg/日)を服用すればCoQ10を減らすことなく,過剰なコレステロールを低下させる理想的な治療になると考えているとのことである。健常人でもCoQ10は加齢とともに低下することが知られているが,食品中に含まれる量が微量なため食物だけで補うには無理がある。そこで健康食品の形態で摂取することが勧められているが,スタチン服用患者はなおのことその必要があると考えられる。

図1

紅麹に含まれるスタチン

 スタチンに関係する二つ目の話題は,東邦大学医療センター大森病院の芳野原(ヨシノ・ゲン)教授の“紅麹にふくまれるスタチンの役割について”である。すでに10年以上前から紅麹には血中コレスレロールを低下させる成分が含まれ,その摂取によって血中LDL-コレステロールが低下することが知られている。紅麹由来サプリメントの活性成分はモナコリンで,本サプリメントには14種類のモナコリンが含まれている。そのなかのモナコリンKは,スタチン系薬剤として1987年に米国食品医薬品局(FDA)から最初に認可を受けたロバスタチンそのもである。同一物質でありながら、異なる名前が付けられているのはその由来の違いによる。モナコリンKは培養した紅麹菌Monascus ruberから代謝産物として得られたものであり,一方、ロバスタチンは生薬の紅麹(コウキク)から得られたものである。1973年、三共(現第一三共)の発酵研究所に当時所属していた遠藤章らは,アオカビの一種 (Penicillium citrinum) からHMG-CoA還元酵素阻害薬であるコンパクチン(メバスタチン)を発見したが,その構造もモナコリンKに近似している(図2参照)。芳野教授は,我が国で市販されている紅麹に含まれるモナコリンの量は製品ごとにばらつきがあるが,1日の推奨摂取量は,処方薬であるプラバスタチンに換算すると2 mg程度であると(プラバスタチンの常用量は1日あたり10~20 mg),臨床効果を紹介された。また海外から直輸入される一部のサプリメントにはストロングスタチンに匹敵するような劇的な効果を示すものがあるとのことである。ちなみに2007年8月,米国FDAはインターネット販売されている「Red Yeast Rice」(紅麹)などダイエタリーサプリメントの3製品に高用量のロバスタチンが含まれていることを公表した。これらの製品では,企業が意図的にロバスタチンを添加していることが考えられ,当局は企業に対して自主回収を求め,消費者には摂取を止まるように注意喚起した。

図2

2011/11/17