IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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COVID-19とナノクルクミン

北陸大学副学長・薬学部長 薬学臨床系教授 光本 泰秀

 COVID-19が国内では,第7波が落ち着きを見せ始めたところだが,世界から見ると新規感染者数の数は圧倒的に日本は多い。つい先日,WHOのテドロス事務局長が「収束させる機会が訪れている」とし感染対策を継続するよう各国に呼びかけたというニュースが流れた。国内の感染状況の収まりが海外から遅れをとっていることを考えると,日本の初期対応が本当に間違っていなかったのか(検査と隔離の徹底がなされてこなかった)と疑念を抱かざるを得ない。
 COVID-19に関しては,ここ数年の間に基礎及び臨床ともに膨大な量の科学的知見が蓄積されてきた。今回,我々に馴染みのある健康食品であるクルクミンのプラセボ対象ランダム化比較試験1)について紹介したい。クルクミンは,ウコンの根茎に含まれる疎水性ポリフェノールの一種で,香辛料として食用に用いられる。また,クルクミンが基礎的に抗酸化,抗腫瘍や抗炎症など多様な効果を示すことから,医療分野での応用に期待がかかっている2)。クルクミンは,難水溶性で生物学的利用率の低さが欠点であったが,本報告の臨床試験ではそれらの問題を回避できるナノクルクミンが用いられた。
 COVID-19の臨床症状は,軽度・中等度から重度まで様々だが,最も一般的な症状として,発熱,乾いた咳,喉の痛み,疲労感,頭痛,鼻水,鼻づまりなどが知られている3)。重症型では,約15%の患者さんが急性肺炎に移行し,5%の症例で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を併発し,敗血症性ショックや多臓器不全に至る4)。このウイルスがもたらす病態の発症機序は未だ不明な点が多々あるが,免疫反応の過剰な活性化と局所的・全身的な無制御な炎症反応により,サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)を引き起こすことが重症化の主な要因であると考えられている5)
 ここで紹介する臨床試験では,ナノクルクミンがCOVID-19患者の炎症性サイトカインにどのような影響を及ぼすかを評価している。軽症から中等症のCOVID-19の入院患者60名をナノクルクミン群と対照群に無作為に分け,240 mg/日のナノクルクミンが7日間投与された。患者の臨床症状および検査項目は,0日目と7日目に評価した。検査項目として,全血から抽出したtotal RNAを用いたIFN-γ,IL-1β,IL-6,MCP-1及びTNF-α の mRNA 発現レベルとIL-1β,IL-6及びTNF-αの血清レベルの評価を行った。ナノクルクミンの投与により臨床症状および検査値の改善が認められ, IFN-γ (p = 0.006) 及び TNF-α (p = 0.04) のmRNA 発現レベルは、ナノクルクミン投与によって有意に減少した。また,IFN-γ (p = 0.001), IL-1β (p = 0.0002) 及びIL-6 (p = 0.008) のmRNA発現レベルにおいて、ナノクルクミン群と対照群の間で有意差が認められた。更に血清IL-1βレベル(p = 0.042)でも両群間で有意差が認められた。これらのことから、ナノクルクミンがCOVID-19患者での全身的な炎症反応を抑制するうえで,補完的な薬物として期待できるとの報告である。
 補完代替医療アプローチでは,ワクチンや治療薬で進められているような大規模な臨床試験を通して有効性に関するエビデンスを取得することが困難だけに貴重な知見である。

【参考資料】

1)Asadirad A, Nashibi R, Khodadadi A, Ghadiri AA, Sadeghi M, Aminian A, Dehnavi S. (2022) Antiinflammatory potential of nano-curcumin as an alternative therapeutic agent for the treatment of mild-to-moderate hospitalized COVID-19 patients in a placebo-controlled clinical trial. Phytotherapy Res. 36: 1023-1031.

2)Babaei F, Nassiri-Asl M, Hosseinzadeh H. (2020). Curcumin (a constituent of turmeric): New treatment option against COVID-19. Food Science & Nutrition. 8: 5215–5227.

3)Li G, Fan Y, Lai Y, Han T, Li Z, Zhou P, Wu, J. (2020). Coronavirus infections and immune responses. Journal of Medical Virology. 92: 424–432.

4)Huang C, Wang Y, Li X, Ren L, Zhao J, Hu Y, Cao, B. (2020). Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. The Lancet. 395: 497–506.

5)Roshanravan N, Seif F, Ostadrahimi A, Pouraghaei M, Ghaffari S. (2020). Targeting cytokine storm to manage patients with COVID-19: A mini-review. Archives of Medical Research. 51: 608–612.