IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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COVID-19と補完代替医療

北陸大学薬学部 薬学臨床系薬理学分野 代替医療薬学・実験治療学研究室 教授 光本 泰秀

 世界の累積感染者数が約2,700万人,死者数が90万人に達しようとしている(2020年9月8日時点のWHO発表)。また,報道によるとフランスでは、9月4日に一日の新規感染者数が8,700人を超え過去最多となった。いったん落ち着くように見えてもまたぶり返し,なかなか収束に向かうことのない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,地球規模で人間社会に様々な影響を及ぼしている。国内の状況は,ここ一ヶ月間の感染者数は下り坂にあるものの,インフルエンザ流行の季節を控え,その対策強化が急務である。
 先般,日本補完代替医療学会と日本比較統合医療学会からCOVID-19に対する様々な観察研究を開始することが告知された1)。COVID-19に対する標準的治療法が確立されていない現在,これまでに蓄積された多くの知見に基づいて,様々な非薬物療法の可能性を探っていこうといった動きである。現代西洋医療が浸透する以前には,人類が自然界に存在する様々なものを治療や予防に役立ててきたことを考えると,今回のCOVID-19に立ち向かう方策のヒントがそれらのどこかに隠されているかもしれない。
 ここでは,学会からの上記の告知内で取り上げられているいくつかの候補について紹介したい。COVID-19は,中国,武漢に端を発した感染症であるが,その中国では中医学の有用性に期待が集まっており,玉屏風散,清肺排毒湯,桂麻各半湯などの処方が候補に挙がっている。これらは,ウイルスの増殖を阻止する西洋薬と併用することにより相乗効果が期待できると考えられる。茶葉中に豊富に含まれるエピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate, EGCG)は,他のカテキン類やポリフェノールに比べて抗ウイルス活性が高いことが知られている。大阪大学が開発したウイルス膜への親和性を高めたEGCG脂肪酸モノエステルは,ウイルスの細胞への接着や出芽過程を阻害することが確かめられており,既に同物質を配合した感染対策品も上市されている2)。抗ウイルス,免疫賦活効果が期待されるいくつかの食品も観察研究の候補に挙がっている。梅干し,ワサビ,ニンニク,ハトムギCRDエキス,メリンジョ種子エキスなど,これらはその含有成分や抽出エキスが抗ウイルス作用や免疫賦活作用を有していることが基礎的に確認されており,また一部についてはヒトでの症状改善が認められたものもある。その中でもワサビは興味深い。ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネートは,抗ウイルス作用を有しており,常温で揮発しやすいため吸入に適している。ハッカ油とともに練ったものをコーヒーフィルターに塗布し,それをマスクの内側に挟んで30分から1時間程度吸引する。すでに学会関係者が観察研究を進めており,吸引24時間以内に発熱が消失するなど,効果を示唆する所見が得られているとのことである。一方,ヒトのSARS-Cov-2は,ネコ科動物に感染することが確実になってきている。猫コロナウイルス感染が原因となって起こる猫伝染性腹膜炎(feline infectious peritonitis, FIP)などに対する上記の候補物資が及ぼす影響に関する観察研究の必要性についても言及されている。
 ワクチンや治療薬の開発が急がれているが,それらが実用化される時期が見通せない現状を考えると,自身の対策に適用可能な補完代替医療アプローチが今後重要になってくるものと思われる。両学会が主導する観察研究が,感染予防や治療に少なからず貢献できることを期待したい。

【参考資料】

1)鈴木信孝,安川明男.新型コロナウイルスの補完代替医療‐補完代替医療領域の観察研究‐.日本補完代替医療学会誌.2020; 17: 95-98.

2)開發邦宏.大阪大学発の新カテキン技術『CateProtect』
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/feature/2015/20151117