IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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食事バランスとうつ病

北陸大学薬学部 薬学臨床系薬理学分野 代替医療薬学・実験治療学研究室 教授 光本 泰秀

 多目的コホート研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study,JPHC Study)が、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者 津金昌一郎,国立がん研究センター社会と健康研究センター長)において全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われている。これまで、うつ病のリスクに関連する研究成果としてn-3系脂肪酸の摂取量とうつ病のリスクについて報告があった1)。ここでは、n-3系脂肪酸の摂取量がある一定量増加するまでは、うつ病のリスク低下が認められたが、それ以上の摂取量では影響がみられなくなることが示された。基礎研究においては、n-3系脂肪酸がうつ様症状を改善するという多くの知見が認められるが、その効果発現に神経炎症の抑制が関わっている可能性が考えられている2)
 今年に入ってJPHC Studyから「食事バランスガイド遵守とうつ病との関連について」の成果報告があった3)。興味深いので、その概要について紹介したい。平成2年(1990年)に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村(1990年時点)に在住でアンケートに回答した40~59歳の約12,000人のうち、2014-15年に実施された「こころの検診」に参加した1,112人の追跡調査から食事バランスガイド遵守の程度とうつ病との関連を調べた結果が示された。適切な食生活とうつ病の関係について2018年に海外から報告されたメタアナリシスでは、適切な食生活でうつ症状を抑えたが、適切な食生活とうつ病診断との間には関連が認められなかった4)。今回のJPHC Studyでは、アンケート調査の結果を用いて、主食(ごはん、パン、麺)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)、主菜(肉、魚、卵、大豆料理)、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料由来のエネルギー、白肉(魚・鳥肉)の赤肉(豚・牛肉)に対する比の各領域を10点満点として評価し、80点満点で食事バランスガイド遵守の程度を表した。遵守得点によって対象者を4つのグループに分け、アンケート調査から約20年後(2014-15年)の精神科医によるうつ病診断との関連を調べた。データ解析にあたっては、年齢、性別、単身生活、教育歴、喫煙歴、飲酒歴、身体活動量、過去のうつ病、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の既往の影響をできるだけ取り除いた。その結果、食事バランスガイドの遵守得点とうつ病のリスクの間に統計学的に有意な関連は認められなかった(図1)。この報告では、食事バランスガイドを遵守することと、精神科医が診断したうつ病のリスクの間には関連性が認められず、海外からの報告と一致していた。また、食事内容(主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料、白肉の赤肉に対する比)それぞれについて検討したところ、白肉の赤肉に対する比において、最も比が低いグループに比べて高いグループで48%うつ病のリスクの低下が認められた。この結果は、豚・牛肉よりも魚・鶏肉を多く食べる方が、うつ病予防に有効である可能性を示唆している。

図1 食事バランス遵守得点とうつ病発症との関連

【参考資料】

1)Matsuoka YJ, Sawada N, Mimura M, Shikimoto R, Nozaki S, Hamazaki K, Uchitomi Y, Tsugane S. Dietary fish, n-3 polyunsaturated fatty acid consumption, and depression risk in Japan: a population-based prospective cohort study. Transl Psychiatry (2017) 7, e1242.
魚介類・n-3不飽和脂肪酸摂取とうつ病との関連について‐多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-(2017)https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/7983.html

2)Shi Z, Ren H, Huang Z, Peng Y, He B, Yao X, Yuan TF, Su H. Fish Oil Prevents Lipopolysaccharide-Induced Depressive-Like Behavior by Inhibiting Neuroinflammation. Mol Neurobiol. (2017) 54, 7327-7334.

3)Okubo R, Matsuoka YJ, Sawada N, Mimura M, Kurotani K, Nozaki S, Shikimoto R, Tsugane S. Diet quality and depression risk in a Japanese population: the Japan Public Health Center (JPHC)-based Prospective Study. Sci Rep. (2019) 9, 7150.
食事バランスガイド遵守とうつ病との関連について‐多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-(2019)https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8250.html

4)Molendijk M, Molero P, Ortuño Sánchez-Pedreño F, Van der Does W, Angel Martínez-González M. Diet quality and depression risk: A systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. J Affect Disord. (2018) 226, 346-354.