IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
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リハビリプログラム“LSVT®BIG”とは?

北陸大学薬学部 医療薬学講座代替医療薬学分野 教授 光本 泰秀

 昨年の5月、日本神経学会の「パーキンソン病診療ガイドライン2018」が7年ぶりに改訂された1)。このガイドラインでは、診断基準においてパーキンソニズムの定義が変更され、薬物療法に関して、より早期からドパミン補充療法を行うことの重要性が強調されている。また、運動合併症のリスクが高い場合の選択肢にMAO-B阻害薬が加えられる等、前版の「パーキンソン病治療ガイドライン2011」からの大きな変更点が見られる。非薬物療法の一つ「運動療法」に関しては、これまでも高いエビデンスレベルでパーキンソン病の運動症状に対する有用性が認められていたが、上記改訂版においても「薬物療法や手術療法とともに運動療法をおこなうことで運動症状の改善が得られ、有用である」と記されている。「運動療法」には、様々なアプローチが含まれており、その大半はエクササイズで2)、その他、太極拳、ロボットアシスト歩行訓練、LSVT®BIG、音楽療法、ダンスやビデオゲームによるエクササイズなど多様な介入方法の有効性が報告されている3)
 ここでは、パーキンソン病のリハビリプログラムとして注目されているLSVT(Lee Silverman Voice Treatment)®について簡単に紹介したい。LSVT®は、この表示にあるように商標登録されている。即ち治療効果を国際的に維持する目的で、臨床現場でこの療法を施行するには米国LSVT Global4)が主催する2日間のWorkshopに参加して認定を取得することが必要である。国内では、新潟リハビリテーション大学が米国の同機関より日本の"プライマリー・ホスト"の指定を受け、LSVT® Workshopの日本開催に関して統括している5)。LSVTは、元々米国で考案された発声発語明瞭度改善目的の訓練法で、パーキンソン病患者の発話明瞭度改善に有効であることが知られている。理学療法(PT)領域への応用研究も進んできたため、発声訓練を主体とする言語聴覚療法(ST)領域の訓練法をLSVT® LOUD、PT領域の訓練をLSVT® BIGと呼んで区別するようになった。
 LSVTの歴史を遡ると1980年代にコロラドボルダー大学の言語聴覚学科にてパーキンソン病のリハビリテーション研究を開始したLorraine Ramig博士にたどり着く6)。Ramig博士は、同僚のGould博士から友人のLee Silverman夫人の治療に対する支援を求められた。Ramig博士の音声治療は、患者の発声能力および発語能力を高めることを目的として、週に4回各1時間のセッションを4週間行う治療プログラムから構成されていた。その後、この治療プログラムの医学的有効性が認識される前に最初の患者であったLee Silverman夫人が亡くなったため、夫人の名前を冠してLee Silverman Voice Treatmentと名付けられ、LSVT Globalが設立された。
 LSVT® BIGは、言語療法士、理学療法士および作業療法士により、パーキンソン病患者の高振幅動作を促進するために応用されている。 LSVT® BIGに特徴的な素早く大きな動きは、パーキンソン病の特徴的な運動症状の1つ、運動緩慢の改善を目的としている。軽度から中等度のパーキンソン病患者を対象に実施されたBerlin LSVT® BIG Study7)では、3つの異なる運動プログラムのパーキンソン病運動症状に対する有効性を比較し、LSVT® BIGトレーニング群は、ノルディックウォーキング群や在宅運動群と比較してパーキンソン病評価尺度(UPDRS)運動スコア及び10 m歩行タイムやTimed Up and Go testにおいて有意な改善効果を示したことが報告されている。
 冒頭にも述べたように、パーキンソン病患者に対する運動療法の臨床的有用性については、一定の科学的エビデンスが得られている。しかしながらその効果を裏付ける作用機序(メカニズム)については、未知な部分が多く残されている。今後、この領域の基礎的、臨床的研究が益々発展し、パーキンソン病患者に対する最適な運動療法の開発に繫がることを期待したい。

【参考資料】

1)パーキンソン病診療ガイドライン作成員会.パーキンソン病診療ガイドライン2018 監修日本神経学会 医学書院

2)Bloem BR, de Vries NM, Ebersbach G. Nonpharmacological treatments for patients with Parkinson's disease. Mov Disord. 2015; 30(11): 1504-20.

3)Tomlinson CL, Patel S, Meek C, Herd CP, Clarke CE, Stowe R, Shah L, Sackley C, Deane KH, Wheatley K, Ives N. Physiotherapy intervention in Parkinson's disease: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2012; 345: e5004.

4)LSVT Global, Inc. https://www.lsvtglobal.com/IdaIndexLSVT

5)新潟リハビリテーション大学.LSVT.https://nur.ac.jp/lsvt/

6)Wikipedia (Last edited: August 16, 2018). Lee Silverman voice treatment. https://en.wikipedia.org/wiki/Lee_Silverman_voice_treatment

7)Ebersbach G, Ebersbach A, Edler D, Kaufhold O, Kusch M, Kupsch A, Wissel J.  Comparing exercise in Parkinson's disease--the Berlin LSVT®BIG study. Mov Disord. 2010; 25(12): 1902-8.