IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
機能性表示食品としてのテアニン

 更年期におけるホルモン補充療法(hormone replacement therapy, HRT)は,その臨床効果について一定の評価を得ていたが,2002年に発表されたWomen’s Health Initiative (WHI)1)という大規模な臨床試験が,その認識を一変させた。WHIは,米国で50~70歳の閉経後女性161,808人を対象とし,1991年より実施された大規模な臨床試験で,HRTとがん・心血管系疾患・骨粗しょう症や生活習慣病の発生との関連を探ることが大きな目的であった。2002年の中間報告では,プロゲスチンを併用するエストロゲン療法を受けた試験参加者の乳がん,心血管系疾患、脳卒中及び血液凝固がプラセボの投与を受けた女性よりも増加することが示された。このことから国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute,NHLBI)は、HRTには有益性を上回るリスクが認められたと結論付けた。この結果,HRTに対する見方に変化が起こり,その使用が極端に減少した。なお,国内では日本産科婦人科学会・日本女性医学学会(旧日本更年期医学会)が2009年に「ホルモン補充療法ガイドライン」を発刊し,その後の評価によりHRTの適応拡大が加速したと同時に,各種施行条件による有害事象発現の差異の解析結果の報告も相次いだことを受け,2012年に改訂版の刊行に至っている2)

 上記のような背景から,米国では更年期症状の改善を目的に補完代替医療に注目が集まり,その中でも大豆イソフラボンへの期待が高まった。米国では,更年期女性の約半数が顔のほてり(ホットフラッシュ)などの症状を訴えるが,日本人女性には少ないといった疫学的事実がある。これは,大豆イソフラボンを含む日本の食習慣に原因の一端があると考えられている。大豆イソフラボンの更年期女性における血管運動神経症状(vasomotor symptoms)に対する臨床効果については,これまで米国を中心に多くの試験が実施され,その有用性について肯定的な結果だけでなく,効果が証明されなかった報告も含まれる。これらの結果を総括する形で2010年米国シカゴにて開催された北米閉経学会Wulf H. Utian Translational Science Symposiumにおいて,更年期症状に対する大豆イソフラボンの有用性について一定の見解が示された3)

 なお,厚生労働省は平成18年5 月に大豆イソフラボンの一日上限量を大豆イソフラボンアグリコン換算で70~75 mg と定めている。この数値の設定根拠として内閣府食品安全委員会は,以下の2点を挙げている4)
1) 食経験に基づく設定 日本人が長年にわたり摂取している大豆食品からの大豆イソフラボンの摂取量により,明らかな健康被害は報告されていないことから,その量は概ね安全であると考えました。そこで,平成14年国民栄養調査から試算した,大豆食品からの大豆イソフラボン摂取量の95パーセンタイル値70 mg/日(64〜76 mg/日:大豆イソフラボンアグリコン換算値)を食経験に基づく,現時点におけるヒトの安全な摂取目安量の上限値としました。
2)ヒト臨床研究に基づく設定  海外(イタリア)において,閉経後女性を対象に大豆イソフラボン錠剤を150 mg/日,5年間,摂取し続けた試験において,子宮内膜増殖症の発症が摂取群で有意に高かったことから,大豆イソフラボン150 mg/日はヒトにおける健康被害の発現が懸念される「影響量」と考えました。摂取対象者が閉経後女性のみであることや個人差等を考慮し,150 mg/日の2分の1,75 mg/日(大豆イソフラボンアグリコン換算値)をヒト臨床試験に基づく,現時点におけるヒトの安全な摂取目安量の上限値としました。

 大豆イソフラボンの効果発現には,その植物性エストロゲンとしての作用が関わっている。そのため乳がんのリスクとの関係が問題視されているが,最近の臨床報告では,乳がんリスクを軽減したとの分析結果が報告されている5)。今後,蓄積されてくる情報から目が離せない。

【参考文献】

1. Writing Group for the Women's Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results From the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002; 288(3): 321-33.
2. 日本産科婦人科学会,日本女性医学学会,編集・監修.ホルモン補充療法ガイドライン2012年度版.日本産科婦人科学会事務局出版.
3. Clarkson TB, Utian WH, Barnes S, et al, for the NAMS Isoflavone Translational Symposium. The role of soy isoflavones in menopausal health: report of The North American Menopause Society/Wulf H. Utian Translational Science Symposium in Chicago, IL (October 2010). Menopause 2011; 18: 732-753.
4. 食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」
ホームページ:http://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html
5. Chen M, Rao Y, Zheng Y, Wei S, Li Y, et al. Association between Soy Isoflavone Intake and Breast Cancer Risk for Pre- and Post-Menopausal Women: A Meta-Analysis of Epidemiological Studies. PLoS ONE 2014; 9(2): e89288.

2016/07/29