IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
ナチュロパシー(自然療法)

 ナチュロパシー(Naturopathy)は,身体が本来持っている自然治癒力を活かして健康を維持したり,病気を治そうとする医学のことである。自然療法とも訳されるこの療法は、アーユルヴェーダに代表されるインド医学、鍼灸や気功などをも含む中国医学、それにヒポクラテス医学のようなギリシャ医学、あるいはその後我が国で独自の発展を遂げた漢方医学など、凡そ数千年の昔から世界各地で受け継がれ発展してきた自然治癒力を尊ぶ伝統医学に共通する考え方に基づいている。
 しかし、実はナチュロパシーの歴史は新しく、米国に移住したドイツ人の医師Benedict Lust(図1)が19世紀末にニューヨーク市で創設したナチュロパシー・スクールが最初だといわれている。

図1

図1.Benedict Lust (1872 - 1945)

図2

図2.Universal Naturopathic Directory and Buyer’s Guide, 1918, Published by Benedict Lust

 Benedict Lustのナチュロパシーに対する基本的考え方は、1918年発行の「Universal Naturopathic Directory and Buyer’s Guide」(図2)の中に述べられている。その中で「通常の医学は,いつの時代も疾患の原因に対して注意を払うことなく,単に症状のみを抑えようとしてきたが,自然治療は単に症状を改善することよりも原因を取り除くことに重点が置かれている。」との一文があり,これは自然治癒力が疾患の根本的な原因を標的に働くことを意味し,現代科学でも十分に説明し得るものである。現在米国では,医師がこの自然治癒力を導くために,ライフスタイルの指導,食事療法,鍼治療,運動療法,薬草療法,水療法、マッサージ,超音波療法、光療法などを実践している。また,ワシントン州シアトル郊外にあるBastyr大学(http://www.bastyr.edu/)は1978年に創設され,今やNaturopathic Medicine(自然療法医学)分野において世界的なリーダー役になっている。当該大学の大学院課程では,naturopathic medicine(自然療法医学),acupuncture and oriental medicine(鍼・東洋医学),ayurvedic medicine(アーユルヴェーダ医学),nutrition(栄養学),clinical health psychology(臨床健康心理学)などのコースが設けられており,学生の臨床実習がシアトルのBastyr Center for Natural Health( http://bastyrcenter.org/)で実施されている。補完代替医療という概念が1990年頃に提案され,今では世界的に一つの医療体系としての地位を確立しつつあるが,米国では1978年当時から自然療法医学の領域において教育,研究が進められてきたことになる。
 我が国では,自然療法という言葉自体これまであまり馴染みがなかった。しかしながら以前から民間レベルで実践されてきた様々な療法(例えば断食療法,食事療法,身体強化と矯正など)は,正に自然療法と趣旨を共にする。2007年に日本臨床自然療法研究会が発足し活動を開始しており,2008年6月には医療法人社団KYG医療会及びNPO法人代替医療科学研究センターの主催でUSA-Japan Academic Exchange on Natural Medicine(自然療法医学日米学術交流会)が東京で開催された。今後一つの医療分野として,自然療法医学が正しい理解の下に国内でも浸透していくことを期待したい。

2013/7/2