IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
アロマセラピー

香りの効果とは

 あなたは、香り、においと言ったら、どんなイメージを思い浮かべますか?桜やラベンダーなどかぐわしい花の香りを嗅げば、心が浮き立ったり、気持ちが落ち着いたりするでしょう。反対に、過去の忌まわしい思い出に結びつくよう嫌なにおいには、その時の情景が思い出されて、気が滅入ったり、悲しい気分になったりするでしょう。このように、香りやにおいには様々な種類があり、それらはヒトの心身に深く関与しています。そこで、香りを上手に利用すれば、健康の維持・増進、さらには疾病の治療に繋がりますので、古くから香りを利用した治療法が存在しました。

アロマセラピーとは

 ヨーロッパには昔から植物から抽出した芳香性物質(精油)を用いた民間療法があり、各種疾病の症状の緩和や治療、さらに美容などにまで利用されていました。それらを近代化した治療法がアロマセラピーと呼ばれ、現在注目を浴びています。
 そもそもアロマセラピーは1920年代にフランスの化学者ルネ・モーリス・ガットフォセによって作られた言葉ですが、それは自身が実験室の爆発で手に火傷を負った時、そこにあったラベンダーの精油にとっさに手を突っ込み浸したところ、痕跡も残らないくらい傷がよく治ったので、彼は精油がいろいろな治療に使える可能性を見出したことに始まります。
 1980年以降になると、精油の成分分析、吸収実験、鎮静作用(マウス)の実験などが行われ、またアロマセラピーの症例報告も多くなり、さらに少数ではあっても臨床試験まで報告されるようになってきました。
 しかし、現在では精油成分の化学構造などに関して解明が進んではいるものの、個々の精油成分の作用機序には未だ不明な点が多く、精油の効果の多くは経験的に認識されている段階にあり、今後の研究の進展が待たれます。

精油の作用・副作用

 精油の香りの成分は鼻腔の奥にある嗅上皮細胞の受容体を刺激します。1個の嗅上皮細胞に1種類の受容体しか存在しませんが、哺乳類には約1,000種類の香りに対応する受容体を持つ細胞があります。これは、私たちは極めて微妙な香りの違いも十分に識別可能であることを意味します。
 嗅上皮細胞は神経細胞で、この細胞から神経線維が伸びて頭蓋内の嗅球に達しています。嗅球に達した香りの情報は直接大脳辺縁系に達し、そこから視床下部へと伝えられます。大脳辺縁系は、記憶、意欲、情動などと密接に関係していますので、香りは記憶と結びつきやすいのです。さらに、視床下部に伝わることによって、香りは自律神経系、内分泌系にも影響を与えます。
 香りを嗅ぐことにより副交感神経が働いてリラクセーションが起こるのはこのためです。また、内分泌系を介してストレス状態に対応したり、さらに免疫能に影響を与えたりすることも考えられます。
 こうしたことから、香りを嗅ぐということは、嗅覚を刺激するだけではなく、自律神経系、内分泌系、免疫系などにまで大きな影響を及ぼし、私達の生理機能の恒常性維持に強く関わっているのです(図1)。
 また、精油の吸収経路は他にもあります。すなわち、塗布による経皮吸収、吸入による肺胞からの吸収、経口による口腔粘膜あるいは消化管粘膜吸収などです。ただ、経口による摂取は、素人判断による危険を伴うため、注意が必要です。
 いずれの方法によるにしても、精油には植物のもつ様々な力が凝縮されているので、精油の作用は極めて多岐にわたります。すなわち、感染症に対する抗菌・抗真菌・抗ウイルス作用や、心身症、精神疾患に対する抗不安や抗うつ作用、その他にも消化器疾患、皮膚疾患に対するなど作用は様々です。
 これらの効果は、個々の単一成分の作用だけではなく、精油は多数の化学物質の混合物ですから、複数の成分間の相互作用にも依存しています。さらに、成分間の相乗効果、抑制効果といった相互作用は、一種類の精油内だけでなく、複数の精油間でも起こり得ます。
 今後、これら相互作用の有効利用が、古来の伝統に由来するアロマセラピーと近代西洋医学を融合させ、より効果的な疾病治療誕生への架け橋になってくれることを心から期待しています。

精油の効能効果(例)

図1