IME 特定非営利活動法人 医療教育研究所 代替医療情報 光本泰秀教授
補完代替医療について

はじめに

 補完代替医療 (Complementary and Alternative Medicine、CAM) という言葉が世間一般に浸透しつつありますが、これは近年新たに注目されている医療分野で、西洋医学以外の手法を用いた、科学的未検証若しくは現代医療において応用の可否が明らかになっていない医療分野のことです。例えばサプリメント、健康補助食品、ハーブ、鍼灸、指圧、漢方、アロマテラピー、運動療法など、これらはすべてCAMに属する材料、手法です。これ以外にも代替医療は広範囲にわたっており、世界各地の伝統・伝承医学や民間療法も含まれています。近年の情報化社会を反映して、CAMを求める患者や健康の維持・増進に利用する人が急速に増加しています。こういった動きは我が国だけでなく世界中で起こっています。特に米国では政府の主導でCAMの科学的検証や臨床的評価が始まっており、有用性、安全性が確認されたものについては現代西洋医学による治療の中に積極的に取り入れようとする考え方に至っています。

なぜ今、代替医療が脚光を浴びているのか?

 西洋医学が従来治療が困難とされていた様々な疾患、感染症を克服したことは間違いありません。一方で西洋医学の限界を思わせるような疾患もあるわけです。これほど医学が発達したとは言え、例えば癌を克服するまでにはまだかなりの距離があり、治療を目的とした薬はかえって患者を苦しめている場合が多々あります。また、ストレス社会を反映して心の風邪に悩ませられている人が増加しています。うつ病、不安神経症などの精神疾患は決して稀な病気ではなく、だれもが発症してもおかしくない病気ですが西洋医学的治療(薬物治療)では十分な治療効果が得られていません。更に老齢化社会を反映して我々が年を取ることにより悩まされるいくつかの疾患が問題になってきました。特に生活の質(Quality of life)を著しく害するのがアルツハイマー病に代表される認知症(痴呆症)です。このような脳神経細胞が死んでいく疾患は発症までに長い年月を要しますが、現代医学をもってしても早期の診断は不可能で治療も満足出来るものはありません。補完代替医療で用いられている手法は、薬物療法のように臨床現場での有効性がはっきりしないものも少なくありませんが、副作用の面も含め患者さんに対して肉体的、精神的負担が比較的少ないのが特徴です。将来的には西洋医学に補完代替医療を融和させた統合医療が医療現場で実践に移されていくと考えられますが、そのためにはまず補完代替医療の長所、短所を科学的に見極めることが重要であり、最終的に患者さんが利益を得る形で医療・健康社会に浸透させていかなければなりません。

代替医療の抱える問題点は?

 人の体内に入る化学物質の中で疾病に対する効能・効果を掲げることが出来るのは医薬品のみです。各医薬品は何らかの作用メカニズムに基づいて体の中の種々細胞や臓器の働きを正常化し疾患に対する有効性を発揮します。同じように補完代替医療に属する材料、手法も人の生理機能に影響を及ぼす限りは何らかの作用メカニズムを有することに間違いありません。しかしながら、その有効性が厳密な臨床試験(ランダム化比較臨床試験)によって科学的に検証されたものは多くありません。更にほとんどの場合、なぜ効果を発揮するかといった作用メカニズムについても十分な検討がされていません。治療薬においても作用メカニズムが明確でないものがありますが、少なくともその薬物がどのような分子に作用するかは明らかです。今後、代替医療に応用されている材料・手法の人体に及ぼす影響を科学的に検証し、更に詳細な作用メカニズムを解明していくことは代替医療科学の発展にとって重要な課題と考えられます。